交通工学研究会講習会「これからの生活道路対策」

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日時 2016年6月30日

場所 科学技術館サイエンスホール

生活道路の安全確保は同時に通学路の安全確保と監査なる問題である。通学道路の交通事故は多発しており、生活道路の安全確保と重ねて検討が必要である。

1、生活道路対策の主な経緯

①昭和40年代  都市総合交通規制、生活ゾーン規制、スクールゾーン

②昭和50年代  コミュニティ道路、ロードピア構想、住環境整備事業

2、コミュニティゾーン

平成8年にスタート

1)特徴

・対象範囲を面的に捉えて対策を行う

・ソフト手法(通過交通排除規制、速度規制)およびハード手法(クランク、ハンプ、狭さく)を適切に組み合わせる

・住民や関係機関を含めた総合的な対策で取り組む

・道路利用者、居住者に対する総合的視点(バイアフリー、環境、街づくり等)に配慮

2)コミュティゾーン形成の視点

・通過交通の排除

・航行速度の抑制(30km規制)

・路上駐車の適正化

・交通弱者への配慮

・自転車利用者への配慮

・環境面、景観面での配慮

・住民参加とコミュニティ再生、活性化

3、ゾーン30の推進

コミュティゾーンは優れた施策であったが、全国的には50箇所程度しか普及しなかった。理由は物理的デバイスとしてのハンプの機能上の問題、道路管理者(多くは地方自治体)の財政上の問題、住民合意の問題などが考えられる。その後「ゾーン30の推進について」平成23年に警察庁交通局長通達が出され、平成24年から平成28年までに全国で3000箇所を目標倒して落ち、平成27年度末までに2490箇所を達成している。背景には、第10次交通安全基本計画(2016~)において、これまでの対策によって幹線道路における交通事故は減少しており、他方生活道路における交通事故の減少は頭打ち状況にあるとして対策を強化するとしたことにある。

通達では、歩行者の通行が優先され、通過交通が可能な限り抑制されるという基本的コンセプトに対する地域住民の同意が得られる地域より、柔軟にゾーンとして設定する。ゾーン内は最高速度30km/hの区域規制を実施を前提として、その他の対策については住民の意見や財政的制約も踏まえつつ、可能なものから実施するというものである。

 

4、ゾーン30の推進に向けての物理的デバイスの研究

ゾーン30とコミュティゾーンは基本的には同じものであるが、コミュティゾーンは基本的には幹線道路の囲まれたエリアの指定であったが、ゾーン30はエリアの指定だけでなく、路線の指定も出来る。速度規制だけでは調査によると30km/h以下で走行する車両はなく、また進入規制も表示だけでは実効性が伴っていない。生活道路の安全確保のためには規制だけでなく、物理的デバイスの組み合わせが必要であり、この間物理的デバイスについての研究がされてきた。

これまでは物理的デバイス,とりわけハンプの設置は機能上の問題により、住民からの騒音のクレームや速度規制を守らない運手によるバウンドでの車や積み荷の損傷のクレームなどから道路管理者が設置を進めてこなかった。ハンプについて研究が進められ、今回国土交通省で物理的デバイスに関する技術基準を定めたことで、道路管理者はクレーム対応が出来、設置しやすくなる。

1)ハンプの改良

ハンプは道路面に凸部の構造物を設置するものである。ハンプは1970年度にイギリスで研究がなされ、長さ12フィート(3.55㎝)、高さ4インチ(10.2㎝)の円形ハンプが発表され、これが主流となってきた。しかし、この円形ハンプは騒音やバウンドの問題、更に狭隘な道路では自転車や車いすも通行することから問題がある。最近の研究では勾配は5%(2メートルで10㎝)、最大8%、高さは10㎝、フラットの部分は2m、の台形ハンプが開発されたおり、国土交通省の技術基準となっている。傾斜はサイン曲線が好ましいが設置後の検査では確認が難しいため、技術基準ではなめらかなものとされている。このハンプであれば30km/hの走行であれば騒音もなく、バウンドも起こらない。台形のフラット部分を2mにしているのは車両の車輪間の長さ以上であればバウンドしないためである。また、自転車、車いす、高齢者などの通行にも支障がないことが確認されている。

国土交通省の技術基準では、ハンプの構造基準だけでなく、効果的な設置場所、クランク(道路をジグザグ構造にして直線化させない構造)や狭さく(ラバーポールの設置で道幅を狭める)の活用方法などが示されている。物理的デバイスの設置については何よりも住民との協議重要である。

ハンプ160704 001
ハンプ
30km/hの効果160704 001
30km/hの走行でのハンプの効果
狭さく160704 001
狭さく
クランク160704 001
クランク

2)ソフトライジングボラード(可動式車止め)

新たな物理的デバイスとしてライジングボラードの開発がなされ、新潟市で設置がされている。ライジングボラードは地中に可動式ポールを埋め込み、道路に進入をさせないときに地上にポールを押し出すものである。海外ではポールが金属製であるため、衝突時に車両の損傷やけがなどが生じ問題となっている。今回開発されたライジングボラードはプラスチック製のポールで、床としてもポールが倒れるため車両の損傷は起こらない。ポールという明示効果が大きく、新潟市の実験では進入禁止時の車両に進入はなくなっている。

ソフトライジングボラードは明示効果が大きく、これまで抜け道として表示看板を動かしてまで進入していた車両の通行をなくしている。課題は設置価格と、管理の問題である。新潟市の進入規制している古町8丁目商店街に3体のソフトライジングボード設置した価格は1400万円と高額であること、管理は商店であることから商店街の方が日常的に管理しているので、問題が生じたときは迅速に対応できるが、生活道路では難しいと思われる。設置場所の検討が必要である。

ソフトライジングボラード(新潟市)160704 001
新潟市古町8丁目商店街のソフトライジングボラード(可動式車止め)

3)地域住民の合意

物理的デバイスの背一致は、地域に住む方の合意が重要である。設置場所、設置方法、設置後の管理について十分調査・検討される必要がある。そのためには設置の必要性や物理的デバイスの機能性についての情報を提供することが重要である。また、設置に当たり地域住民のみならずドライバーへの十分な周知が必要である。ゾーン30についての国民的理解が進んでおらず、警察だけではなく、地方自治体、地域、学校、様々な事業者などと連携して周知を図る必要がある。

 

4、ビッグデーターの活用による対策

警察庁はETCを使った交通データをもっており、500mメッシュの地域毎データを提供できる。このデータを使い、時間帯、道路毎の課題を分析し、ゾーン30の設定に役立ててほしいということである。