生活保護問題議員研修会

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日時 2016年8月26日(金)、27日(土)

場所 富山県民共生センタ-・サンフォルテ

 

1,生活保護を巡る最近の動き:花園大学吉永純教授

生活保護費の切り下げ(10%程度削減、住居扶助削減、高齢者加算の廃止、寒冷地加算の削減)による生活保護世帯の窮乏化、社会的孤立化が起こっている。日本の品顧問代は

・相対貧困率16.1%

・子どもの相対貧困率16.3%

・母子糧の相対貧困率54%

となっており、貧困の連鎖を断ち切る必要がある。そのためには社会的バックアップが必要。生活保護世帯では、大学進学するためには世帯分離が必要となり、子どもが進学することで家庭が窮乏化し、進学した子どもは生活のためのアルバイトと奨学基金ローンの借金に苦しめられる。この状況を変えなければ若者の貧困は増える。

労働・社会保障の集中的な改悪がなされている今日、生活保護についての正しい理解をして生活保護の活用をすべき。また、低所得者は無料低料診療事業の活用することで医療負担を軽減できる。これらの制度を活用することで早期に健康を回復させ社会復帰を果たすことで負の連鎖を断ち切らないといけない。そのためにも、成果保護に対する屈辱感を捨てるとともに、ソーシャルワーカーなどへの相談をすることが必要。

 

2、広がる高齢者の貧困と対策の必要性:藤田孝典聖学院大学客員教授(「下流老人」著者)

相対貧困率16.1% OECD加盟34ヶ国・地域の中で6番目に高い

貧困ライン 一人世帯125万円(年間所得)、二人世帯170万円、

3人世帯210万円、4人世帯245万円

高齢者の貧困率 18.0% 5人に一人 700万人と推定される

単身高齢者男性 38.3%、単身高齢者女性52.3%

<誰もが高齢期に貧困に陥る可能性>

・病気・自己による医療負担増

・子どものパラサイトによる共倒れ

・熟年離婚による財産分与

・認知症による判断力の低下

 

<下流老人の特徴>

・収入が少ない(低年金、無年金)

マクロ経済スライドによる年金の減額(物価上昇率の内の0.9%を引く)

・貯蓄が少ない

・頼れる人がいない

 

<若者の老後が危ない>

・年収が下がっている(1997年の平均賃金467万円→2014年408万円)

物価上昇に賃金が追いついていない、貯蓄が出来ない

・非正規雇用が増えている(年収200万円以下)

厚生年金がない、ボーナス、退職金もない

・一人暮らしの高齢者の予備軍

男性は5人に一人、女性は10人に一人が生涯結婚しない時代に

 

<老後の貧困を回避するために>

・孤独に陥らない、積極的に社会活動に参加する

・資格取得や継続的就労につく

・可能な限り貯蓄する

・生活保護や様々な社会保障制度を受ける受援力を付ける

 

超高齢社会を迎え、年金は切り下げられ、医療負担は増大しており、様々な理由で生活困窮者が増える。また、非正規雇用が増え、賃金が上がらず、退職金もなく、低年金・無年金者が今後増えていくと思われる。生活困窮に陥ったときはセーフティネットしての生活保護や無料低額診療事業などの社会保障制度を活用すべきである。困ったときには生活保護は権利であり、プライドは捨てて受給できる様に気持ちを切り替えることは必要。

 

3、自治体に求められる子どもの貧困対策:朝日新聞大阪本社生活文化部中塚久美子記者

<貧困大国日本の実態>

・子どもの貧困率 16.3%

・一人親家庭の貧困率 54.6%

 

<貧困の連鎖>

・生活保護世帯の母子家庭の母親の4割が生活保護家庭育ち

・生活保護世帯の母子家庭の母親の精神障害3割

・母子家庭の親の低学歴 進学について無関心

・10代の出産、DV被害、子どもが病気、売春、窃盗、虐待

 

生活保護家庭の母親の健康状態、鬱傾向が強い、健康状態がよくない人が多い

 

<子どもの虐待の要因>

・東京都の調査(2003年) 都全体1.5%、 生活保護家庭15,3%

・一人親家庭、経済的理由、孤立、就労不安が多い

 

<生活保護家庭の子どもの教育状況>

・世帯の収入と教育費の相関性がある

・高校進学率 全国平均98.8%(91.4%)、 生活保護家庭92.8%(67.6%)

・高校中退  全国平均1.5%          生活保護家庭4.5%

・大学進学率 全国平均73.2%         生活保護家庭 37.4%

大学:全国平均51.8%         生活保護家庭20.0%

専修:全国平均21.4%         生活保護家庭13.5%

 

・貧困家庭ほど高校中退が多い

 

<母子家庭が父子家庭より貧困率が高い>

平均世帯に対する所得(共働きもある) 母子家庭44.2% 父子家庭69.1%

 

貧困の連鎖を断ち切るために、子どもの居場所づくりとスクールソーシャルワーカーの増員、地域や学校などで子どもを支援する体制が必要。奨学金の貸与や保護家庭での進学のための世帯分離の見直しなど、就労支援や進学支援の体制が必要。

 

 

4、反貧困の財政と地方自治:埼玉大学高端正幸教授

社会保障のあり方は日本はアメリカに近く残余主義が強い国である。これからの財政のあり方を考えると北欧のような普遍種に転換が必要である。

・残余主義→除除・自立・自己責任の社会

・社会保障→自助・自立が出来ない人・失敗した人のみを対象とした救済

中間層以上には自己責任を求める

 

日本は戦後高度成長での成果を都市住民には減税で、地方農村部には国土総合開発などで土木事業による成長の果実を分配してきた。社会保障は会社の厚生福利、家族による介護がなされてきたが、バブル崩壊後、会社よる厚生福利は撤退し核家族化が進み家族内ケアによる自助・自立を強いる社会となっている。社会保障は年金と医療の傾斜しており、子育て支援や就労支援が極端に少なく世代間対立をあおる社会となっている。自助・自立を生活困窮者にまで強要する社会であり、国民年金が異常に低く国民健康保険料が異常に高い。所得水準にかかわらず、全ての人々のニーズをカバーし、自助・自立の困難から人々を解放する普遍主義的政策を進めることで、階層間の連帯・共感の醸成し、中間層の租税負担の同意を得ることができ財源調達が実現できる。

日本は政治不信が大きい社会である。政府への不信感を無くし安心して暮らせる社会へ転換するには、日本の残余主義的悪循環から普遍主義へ政策を転換する必要がある。収入に関係なく全ての人のニーズを充足される普遍主義の政策を実現しためには財源が必要であり、普遍的政策を進めることで所得税の累進、財産等に対する課税などの公正な税制とともに消費税などについて国民の同意が得られる。誰でもが受益者となる教育・医療の無料化、年金や雇用保険による基礎的収入の保障をすることで、安心して消費することが出来、内需を生み出し経済を活性化させ、社会保障費を削減でき、好循環を生む。

 

<地方から政治を変えるために、信頼される地方自治体へ>

地域包括ケアシステム、子ども子育て支援、生活困窮者自立支援など全ての人のニーズに応える普遍主義を実践することで住民の受益感を醸成し、住民の社会参加・社会的包摂を促していくことが必要。そのためには、①地方財政の充実、②定型的・縦割りのサービスから不定形領域横断サービスへの転換、③住民自治の実質化への努力、が必要。

 

 

分科会:低所得者への医療保障

1、岐路に立つ国民健康保険

国民健康保険制度は国が戦争遂行のために兵士の供給源である農村部の健康づくりから始まったが、同時に農村における助け合いから作られてきた。

戦前:1922年 健康保険法 都市部労働者

1938年旧国民健康保険法 岩手県農村部の健康維持←戦争遂行のため「戦力培造」

戦後:1948年国民健康保険法改正

岩手県の取り組み

1956年新国民健康保険法

1961年国民皆保険実現

 

国民健康保険は2018年度から都道府県に単一化される。国は都道府県に単一化し保険料率基準を統一化することで医療費削減を考えている。大阪府など一部の都道府県では統一基準を設定することとしているが、自治体住民の保険料率の決定は自治体に権限はある。基礎自治体の役割が大きい。

 

2、無料低額診療制度の活用

日本では低所得者に対しては医療扶助だけの制度はない。低所得者を救済する制度として無料低額医療事業がある。無料低額医療事業者は2016年度で787施設、医療生協などを中心に増えている。この制度はあまり知られておらず、また自治他病院での実施がまだ少ない。また、医療費は減免されるが薬代は対象ではなく、一部の自治体が薬代の助成をしているだけである。今後、無料低額診療を行う医療機関の拡大、特に自治体病院での実施を拡大すること、薬代の助成の制度を作ること、制度を広く周知していくことが求められている。因みに、福岡市では千鳥橋病院とそのグループ病院が無料低額診療をしている。

 

<無料低額診療制度とは>

・医療事業者が国の認定を受ければ無料低額診療を行うと固定資産税・地方税・法人税の減免される社会福祉法人・医療生協は原則非課税。

・低所得者の対象は収入が生活保護費の1.3~1.5倍(事業所の判断による)の人

・対象者は国民健康保険や社会保険に加入していることが条件

・対象者の医療負担は自己負担額を無料ないし低額にする

・医療費だけが対象で薬代は対象になっていない。(薬代を助成している自治体は7ある)

・生活困窮者であれば不法移民でも対象となり、入管に報告の義務はない(人道的措置)

 

無料低額診療制度の基準

<無料低額診療施設の基準(必須)>

(平成工3年7月23日国通知)

1、低所得者、要保護者などの生計困難者を対象とする減免方法を定め明示

2、被保護者及び診療費10%以上の減免を受けた者の延数が取扱患者の10%以上

3、医療ソーシヤルワーカーを置き、必要な施設を備える。(昭和49年基準では200床:1 人、現在は削除)

  1. 被保護者、生計困難者を対象に定期的に無料の健康相談・保健教育を行う。

<無料低額診療施設の基準(選択)>

※病院は下記から2つ以上、診療所は7又は8を選択

5、特別な介護を要する患者が常時人院できる休制を控える。

6、日常生活上の特別な介註に対応する介護者を確保し、必要な費用を負担する。

7、その他の社会福祉施設を併せて経営し、他の社会福祉施設と密接な連携を図る。

8、夜間または休日に一定時間外来診療休制をとる。

9、定期的に稚島、へき地等へ診療班を派遣する。

I0、社会福祉施設の腱貝へ、定期的に保健医披に関する研修を実施する。