市民自治基本条例の調査

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市民自治について、6月30日(木)に宗像市、7月13日(水)に川崎市に調査してきました。福岡市において自治協議会によるコミュニティ形成が進められていますが、市民の権利としての自治とコミュニティ形成の議論が未熟であることが改めて感じました。以下調査報告をします。

1、宗像市:市民参画条例について

 「宗像市市民参画、協働およびコミュニティ活動の推進に関する条例」について調査した。条例制定の経緯、条例の仕組みについて説明を受けた。
1)条例案作りの経緯について
 平成15年12月議会に宗像市市民参画条例検討審議会設置のための議案が市長から提案。委員は10名、そのうち3名を公募とした。公募委員は公開抽選とし、応募者は9名であった。委員になったものは市民参画条例制定に向けての4回の学習会に参加することを条件とした。審議会は平成16年3月から平成17年5月まで25回、うち出前審議会を2回開催、この出前審議会では傍聴者の発言も認めている。その間、総則・市民参画グループ、協働・コミュニティグループの2グループに分かれて、総則・市民参画グループは7回、 協働・コミュニティグループは5回の検討会を持っている。平成17年3月に条例案についてパブリックコメント行い、審議会で検討の上5月9日に最終答申を市長に提出、6月議会に議案として出された。6月議会では条例案については継続審議となった。その理由は、全文の市民に求めるものが重いのではないか、コミュニテイについてまだ成熟していないのではないか、またコミュニテイについては別途条例を作るべきではないとの指摘がされている。

2)条例について
 条例は市民参画、協働、コミュニティ活動の推進と3つの構成になっている。市民参画については市が行う市民策の仕組み、市民政策提案手続きと直接住民投票の手続きの構成となっている。
①市が行う市民参画の場
 市が行う市民参画には付属機関の設置について、市民意見提出手続き、市民説明会、市民ワークショップについてより市民の意見が反映できるように定めている。不毒期間については委員の一部を公募すること、原則公開、開催の周知、会議録の作成公表が定められている。同様に、その他の市民参画の手続きについてもそれぞれの手続きの周知、議事録作成、公表、その結果の取扱の公表を定めている。

②市民政策提案手続き
 市民が選挙管理委員会登録人500名の連署でもって、市長に政策提案が出来る制度である。直接請求に準じた制度であるが、より身近に政策提案が出来る制度となっている。直接請求では有権者となっているが、この制度では選挙管理委員会登録人は有権者だけでなく18才以上の市民および登録を希望する外国人登録を行っている18才以上のものとなっている。そのため、選挙管理委員会は2種類の名簿を作成している。
 連署の一を500名として理由は、当初有権者数を6万人(実際は7万5千人となっている)と見積もり、直接請求の要件である有権者の50分の1の連署は12000人程度、一方行政区(自治会や町内会)の構成は200~300世帯であるので、市民的課題は複数行政区に亘るものと考えから、直接請求の要件の半分600名とを重ねて500人という数字が出てきたと言うことであった。
 手続きの流れは、まず政策提案したいと考える者の代表者が市に案件について申請する。申請を受けた市は対象事項に該当するか否かを審査して代表者に審査結果を通知。該当するという通知を受けた代表者は署名を集め、選挙管理委員会に提出。選挙管理委員会は審査し結果を公示する。要件を満たせば請求代表者は政策市民検討会開催を希望するか否かを決め、希望する場合は市は政策提案検討会を開催しこれを受けて市が実施するか否か検討、希望しない場合は市民参画等推進審議会に市長は諮問しその結果を受けて市が実施をするか否かを検討する。市が実施することになれば予算措置ならびに議会へ提案する。実施か否かのいずれの結果も代表者へ通知される。
 対象事項に該当しないと通知を受けた場合は市に不服審査請求が出来、不服審査請求は市民参画推進等審議会に諮問され、その答申を受けて市が審査し決定する。改めて該当するとなれば以下同じ手続きとなる。
 ここで問題と思われることは、請求された政策提案が場合によっては市民新検討会に附されないことである。折角の市民政策提案についてより多くの市民が議論に参加する機会を奪うことになり、画竜点睛を欠くことになると思われる。直接請求制度を補完するものとしては意味があると思われる。 

③住民直接投票
 住民投票は選挙管理委員会登録市民の3分の1以上の連署による場合、12分の1の議員の賛成で提案し出席議員の過半数で可決した場合、市長自ら提案する場合となっている。提案された条例案を市長が議会に提出し、議会で決する。この住民直接投票のあり方は問題がある。市民による条例制定請求は自治法による有権者の50分の1による直接請求よりもハードルが高く、法的な矛盾である。また、議員提案が二重に審議される仕組みとなっておりこれもおかしい。また、総投票数が投票資格者の半数以上でなければ住民投票が成立しないとしていることも問題である。住民投票を意図的に妨害するために投票拒否をするケースも見られ、公正な制度とは言い難い。

④協働およびコミュニティ活動の推進
 協働について条例では市および市民公益活動団体は、行政サービスの協働を行うよう努めるとしており、行政サービスの協働の分野を拡大するとしている。説明によれは、市として明確にコスト削減を謳っており、対等な関係とはいえ、行政サービスとは何かの議論が必要と思われる。コミュニティの活動推進にも現れている。コミュニテイ活動推進について条例では地域住民は自らの権利と義務をふまえ、コミュニティ活動に積極的に参加するように勤めるとなっている。
 宗像市は平成11年に区長制度を廃止している。自治会や町内会は120ほど存在し、小学校区単位でコミュニテイを設立するとしている。コミュニティは12あり、各コミュニティにはコミュニティ会館を市が設置、補助金を一括してコミュニティに交付するとしている。コミュニテイに対して市は委託事業を積極的に提供するとしている。福岡市の自治協議会制度とよく似た制度と思われる。
 行政と市民、地域での自治、議論が成熟しているのか、一つ間違えれば行政のコスト削減のみが突出することになりかねない危惧を感じる。自律した市民、自律した地域と行政の関係は条例で制定することに限界があり、具体的実践からしか生まれない。そのための制度の整備は必要であるが、同時に検証をどのように行うのかが課題である。

2、川崎市:市民自治基本条例および区政改革

1)市民自治基本条例について
①条例制定の経緯
 平成7年に地方分権推進法が成立、庁内に地方分権推進連絡会議を設置。「地方分権にともなう仕事をチェックする指針としての分権事務チェックリスト」作成、市民の分権意識と立法技術を高めるための「市民立法ゼミナール」の開催、平成10年度から11年度にかけて分権の基本的な考え方や方策等についての調査研究を目的とした学識経験者で構成する「地方分権推進研究会」を設置、市民自治の拡充に向けての新・中期計画に基づくパートナーシップ型事業や区パートナーシップまちづくり事業の推進、平成12年4月に地方分権一括邦画が施行にともなう新たな条例制定や既存条例の改廃、県からの事務・権限委譲の取り組み、国の地方分権改革推進会議への要望活動など幅広い活動をしてきた。 平成14年には「地方分権推進研究会」の2度の答申を受け、実効ある分権推進の取り組みを進めるために「川崎市地方分権推進指針」として策定した。同時に、平成13年12月~平成14年3月にかけて5度に亘り、学識経験者による「市民自治の拡充に向けた制度・枠組み研究会(川崎市民自治基本条例研究会)が開催され、川崎版自治基本条例策定に向けての報告書が出されたされた。
 平成15年10月に、市民が主役の街づくりを実現するために、「自治基本条例」の検討を目的として「自治基本条例検討委員会」がスタートした。検討委員会の構成は30名の公募市民と4名の学識経験者で構成され、60回にもおよぶ検討がなされた。検討委員会の運営は、6名の世話人会、4名の学識経験者と4名の市民委員計8名で構成する名の報告書作成委員会、全体会議で運営。全体会議は中間報告後に、市民自治、議会・行政、コミュニティ・区、制度・仕組みの4グループに分かれて検討、 報告書作成委員会は中間報告後は各グループの市民委員1名ずつを加えて12名で運営された。平成16年8月に報告書が答申され、11月に議会に上程され可決成立した。
 検討委員会は中間報告および報告書案について市民討論会を開催して市民意見を反映させた。答申を受けて行政で条例案素案を作成し、7区で市長自ら出席してタウンミーティングを行い、パブリックコメントも実施した。議会では総務委員会で10回ほど経過を追って報告をこない、6月、9月、11月の定例議会では条例についての代表質問がなされた。
 議会で出された主な意見は、公募市民30人は市民を代表しているのか、もっと市民に周知すべき、市民の枠をし在住者だけではなく通勤・通学者や諸団体に広げたことについて企業も市民なのかという指摘、選挙で選ばれた議会と市民自治との調整のどが意見として出されたという。市民自治基本条例は11月議会は賛成多数で成立した。

②条例について
 川崎市では、外国人市民代表者会議、市政オンブズマン制度、人権オンブズマン制度など既に外国人、子ども、女性、市政など個別の課題については制度が作られており、市民自治基本条例はそれらの上に作られている。条例の基本的視点は市民が使いやすい条例にするということであった。
 この条例では、市民について、川崎市に住所を有する人だけでなく、川崎市に通勤・通学している人、川崎市で活動している事業者や団体を指している。これは、少子高齢化、地球環境への配慮、行政需要の多様化、政策課題の広域化などが進行する状況で、地域社会が抱える諸問題を解決するために、いわゆる「住民」だけでなく広範囲の人たちと力を合わせることが必要という認識によるとしている。また、市民の権利と責務、事業者の社会的責任、コミュニティの尊重を規定している。議会、市長の議会の設置について憲法や地方自治法で設置が規定されているが、この条例で市民自治の機関として設置するとしている。
 自治の基本理念として、市と市民が情報を共有する、市民の主体的参加、市と市民の協働を謳っている。行政が保有する情報は市民の財産として適切な発信と管理を市民からゆだねられているという認識を持つとしている。外郭団体についても25%以上出資の団体については全て情報公開をするとしている。
 市民参加を積極的に進めるために条例では審議会等委員には原則公募市民を含むことを規定しており、要綱で審議会等委員の20%以上は公募市民を入れるようになっているということである。審議会等委員会は原則公開としている。公募の仕方はそれぞれ所管による。また条例ではパブリックコメント規定、住民(市に住所を有する人)、議会および市長の発議によって住民投票ができとしている。住民投票の手続きについては、今後別途条例制定するとしている。
 協働については、市と市民は地域の目的や課題を共有してそれぞれの役割と責任の下に対等な関係で協働することし、お互いの特性を生かしてともに解決にあったほうがより大きな効果を期待できる場合に協働するとしている。
 
③まとめ
 市民自治基本条例の策定課程、そして条例の骨格は、市民が自治を担うことを明確にしている。特に団塊の世代が大量に退職し、人材を生かすことが求められており、これまでの地方分権社会に迎え、団体自治と市民自治の確立に向けた地道な取り組みの成果が見えてきている余に思えた。 

2)区民会議について
 市民自治の一つの仕組みである、区民会議について調査した。区民会議は市民自治基本条例でも位置づけられているが、窓口サービス業務の区役所から地域の課題を解決する市民協働の拠点としての区役所へ、区政改革として取り組まれてきた。
①区政改革
 昭和47年に川崎市は政令市となった。昭和53年に区民主体の自主活動組織として区民懇話会を設置。合意形成と政策提言をすることを目的とした。平成元年、庁内に第1次区役所機能等調査検討委員会を設置。区長の権限強化と区の自主執行予算拡充などを議論翌平成2年には区政推進担当として各区に主査1名と係員1名をおいた。区独自に使える区政推進費3千万円を新設。区政推進事業等への検討協議機関として区政推進会議を設置。平成5年代2次区役所機能等調査検討会で区政推進の強化と福祉事務所および子ども文化センターを区役所へ移管、区政課の再編を議論。平成7年に区政推進課を設置、福祉事務所を区役所へ移管。平成8年には第3次区役所機能等調査検討委員会開催、「地域の総合行政機関としての区役所」「パ-トナーシップ型事業の推進」「市民にわかりやすい区役所窓口サービスの構築」っという視点から検討。平成9年、保健所を区役所に移管。平成10年、区民懇話会を改組して「街づくり推進組織」を設置。平成13年、区推進事業費を5千万円に増額。平成14年、川崎市行財政改革プラン策定。区役所を地域における行政サービスの拠点および区民と行政との協働の拠点として機能強化するとした。平成15年、区長の議会出席、土木事務所を区に移管。保健所と福祉事務所を統合して保健福祉センターを設置。この年に区役所機能検討会を開催、区役所の企画・調整部門の強化、区の予算システム、公園事務所等の区役所との連携、市民会館と区役所との連携など検討。平成16年、区に総務企画課(4名)を設置。区行政改革検討委員会から「区行政改革の基本方針」として「窓口サービス機能中心の区役所から、地域の課題を自ら発見し解決できる市民協働拠点へ」という基本方向が示された。平成17年から区役所機能強化に取りかかる。

②区役所機能強化の基本方向
基本方向:市民と協働して地域課題を解決する
・区における地域課題への的確な対応
 区役所を地域の街づくりの拠点として整備
 区役所を子育ての総合的支援拠点として整備:子ども総合支援担当の設置など
・区における市民活動支援施策の推進
 区における市民活動支援体制の整備
 区における市民利用施設のネットワーク化
・便利で快適な区役所サービスの効果的・効率的な提供
 利便性の高い快適な窓口サービスの提供:休日の窓口開設、平日の窓口時間の延長など
 区役所と司書、出張所等の機能分担と効率化
・市民参加による区行政の推進
 区民会議の設置:区における重要事項を調査審議する
 区長の総合調整機能の強化
 区予算の確立:自主執行予算の拡充など
基本方向:市民満足度の高い行政サービスを提供する
・迅速で的確な総合相談サービスの提供
 市民お客様センター設置・運営
その他
・区長の権限強化と位置づけを検討
 区長の外部登用の検討:任期付職員の採用に関する条例を制定
・人事・組織・定数に関する考え方
 繁忙期における職員体制作るために区長の人権を強化:庁内相互援助規定を改正
 地域課題に適切に対応できるよう、組織・定数の枠内での区長の人事権を強化

③区民会議
 区民会議は平成17年度に試行し、その後条例化するとしている。市議会との関係で試行は3回を予定している。構成は市民委員(20名程度)、区選出市議会議員、区選出県議会議員、区長ので構成される。市民委員は、団体からの推薦、公募市民(定数の20%以上)、必要があれば区長の指名となっている。市議会議員および県議会議員は幅広い見識を持つ者として、委員とは異なる参与として参加する。
 区民会議には運営のための幹事会と必要に応じて課題毎の分解を設置する。区民会議が審議する内容は、第1点は区の課題についてどのように解決すればよいかを審議、第2点は区の方針および主要な計画に関することについて審議する。区民会議は市長の付属機関であるが、議決機関ではなく、懇談会でも諮問機関でもない。課題について審議を行い、地域で自主的に解決すべき事項か、区民と区役所が協働で解決すべきことか、関係する局・区の調整を行う市事業として解決を図るべきものか、条例・規則等ルールの整備が必要なものか、国・県など他の行政主体等によって解決が図られるものなのかを整理する。審議結果について区長は必要な手続きおよび措置を執ることになる。

③まとめ
 区民会議の機能は、区行政および市行政に区民の声を反映するとともに、解決について区民の主体的参加と区と区民との協働による解決を意図している。これから試行ということもあり、今後の経過を注視したい。いずれにしても、地方分権が団体分権だけでなく市民自治による分権社会を視点にとらえ、市民自治とは何かを議論し実践した経緯がよく理解できた。更に、その内容の検討を深めたいと考えている。