九大移転対策協議会調査報告

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2006年11月28日(火)、29日(水)

今回の調査目的は九大移転地の研究機関・産業集積の進め方および九大移転の跡地利用のあり方についての調査であった。
28日(火):名古屋市サイエンスパーク
名古屋市サイエンスパークは名古屋市北東部10kmの郊外守山区志段味地区にある。住宅開発、研究施設、企業立地、大学移転がセットとなっている。1987年(昭和62年)にの名古屋市産業振興懇談会で「産業活性化計画」として「志段味ヒューマンサイエンスタウン」建設が提言される。よく年(昭和63年)名古屋指針基本計画の重点事業に位置づけられる。1996年(平成8年)に(財)名古屋都市産業公社設立、サイエンスパークの運営を委託し、平成9年には研究開発センターが開館、サイエンスパーク事業が始まった。

1、志段味ニュータウン
ここは組合方式による土地区画整理事業の住宅開発である。開発面積761㌶、4エリアに分けて開発が進められた。組合方式であれば国の補助金が多きこともあり、大規模な開発がなされている。

2、サイエンスパーク
総事業費は約580億円(用地費500億円、研究開発センター46億円、先端技術連携リサーチセンター30億円、サイエンス交流プラザ6億円)。九大移転先で福岡市が同じような施設を計画

1)研究開発センター
平成9年開館。独立行政法人理化学研究所と共同研究施設がある。施設は市が建設し、運営は名古屋都市産業振興公社に委託。利用料収入と年間約2千間円の市の補助金で運営されている。
2)独立行政法人産業技術総合研究中部センター
旧名古屋工業技術研究所が平成13年移転。
3)サイエンス交流プラザ、
平成16年開館。市が建設。産業支援、交流、連携を目的とし、インキュベーター施設として10室、250人収容の講義室、交流のためのホールで構成。インキュベーター施設は1室25~35㎡、24時間利用ができ、家賃は6~7万円、そのうち1/2を市が助成。現在10室のうち9室が使われている。運営は名古屋都市産業公社に委託、利用料金で運営。
4)先端技術連携リサーチセンター、中部産学連携研究棟、
名古屋市が建設。平成11年開館。運営は名古屋都市産業公社に委託、利用料金と市からの年間約4千万円の補助で運営されている。
中小企業や大学、公的研究施設による先端技術に関する共同研究を3~5年間連携して共同研究している。現在、名古屋市工業研究所と名古屋大工によるナノテクを利用した研究など9プロジェクトが取り組まれている。
5)クリエイション・コア名古屋、工場や研究室を貸し付けるレンタルラボの施設
市が設立。平成14年開設。中小企業へのレンタルラボ(研究所や工場を貸す)。5年以内の貸付で、市からの助成がある。現在19室満室となっている。
3、大学の誘致
名古屋工業大学の移転軽計画が変更され、大学移転は白紙。名古屋工業大学は現地における高度化による整備。他大学の移転予定はなく、複数の大学の移転も視野に調整中。しかし、少子化が進む中で見通しは厳しい。

4、テクノヒル名古屋
総面積9.8㌶、市が開発し一部分譲と定期借地権となっている。平成14年8月から募集開始。H18年9月時点7社2.9㌶、H19年3社3.5㌶が入居決定。H22年に完了予定。分譲価格は7.4万円/㎡、進出企業には県/市からの助成がある。

5、都心部と開発エリアのアクセスの整備
開発エリアが名古屋市の郊外になるため、中心部とのアクセスを整備するためにガードレールバスを敷設。交通量が少ないエリアでは一般道を走り、交通量が増えるエリアでは高架の上を走る。高架部分は6.5km。通常のバスに高架上では車体下部サイドに車輪がでてレールに沿って走るようになっている。利用者が見込めないところで、鉄道同様の定時運行ができる。運営は名古屋市、JR、名鉄による第三セクター。他の交通との均衡を図るために料金は200円に抑えている。
日本で初めてのケースであり、国が推進した事業であったが、名古屋市としてはこの路線以外には設置する予定はないという。高架の建設は旧建設省、高架での運行は軌道法の対象となり旧運輸省の所管となっており、省間の縦割りにより調整が難しいこと、国土交通省になっても多少改善されても調整が難しいとしている。

まとめ
九大移転に伴う周辺整備の例としての視察であったが、公的研究機関が誘致できなければ事業はうまくいかないことを改めて感じた。また、土地処分は助成等が十分でなければなかなか進まない。交通アクセスについては矢張り重要な問題であり、ガイドレールバスは一考に値する。

29日(水):千種アーススクエア(都市整備既往によるサッポロビール工場跡地の再開発事業)
1、事業の経緯
対象地はサッポロビール工場跡地8.35㌶。平成12年共同企画方式による提案型の入札。平成13年4月に5グループの内、森ビルと豊田グループに決定。しかし、同年11月に森ビル・トヨタグループが計画から撤退。徹底の理由は①投資リスクが大きい、②土地価格を固定していたために経済状況に対応できない、③公共施設整備や環境アセス等手続きに時間がかかると云うことである。要は土地を購入してまで事業をするにはリスクが大きいということである。計画を練りなし、都市整備機構が事業を進めることとした。都市整備機構が土地利用計画を立て、エリアごとに募集。土地処分を分譲だけでなく定期借地権付きの賃貸というたような土地利用をしたことで計画後4年で処分を終わっている。

2、具体的な事業内容
全体の土地利用は、大型商業施設30,828㎡、スポーツ専用施設6436㎡、民間分譲住宅用地9,364㎡、民間賃貸住宅用地①6,614㎡と②6,905㎡、起業家育成施設用地3,300㎡、医療・高齢者施設用地7,423㎡となっている。大型商業施設にはイオングループが、スポーツ施設にはメガロスが入居、いずれも20年間契約の定期借地権の賃貸となっている。分譲住宅用地は民間企業に分譲、既に分譲されている。民間賃貸住宅①は50年の定期借地権の賃貸、既に高級賃貸マンションが建設されていた。民間賃貸住宅②は60年の定期借地権の賃貸、既に契約が済み、建築の準備が始まっていた。起業家育成施設は独立行政法人中小企業基盤整備機構が用地を購入、施設は完成していた。医療・高齢者施設は医療法人純正会が用地を購入優良同人ホームが建設されていた。

3、応募についてあり方
ここでは予め土地利用図を作り、街のデザインを作った上で、応募者に建物のデザイン、色調、緑地の配置を提案している。全ては満足できるものではないが、それなりの取り組みがなされている。

まとめ
ここの再開発は土地について分譲だけでなく、定期借地権付き賃貸をするなど多様な土地処分がうまく機能して短期間で事業が完了している。また、街並みを予め想定した上でデザインや色調、緑地の配置などを提案され、良好なエリアを形成する試みが評価できる。しかし、この区画以外との整合性がないため箱庭的になっている。これは全体としての都市のイメージがつくられていないにことであり、どこの都市でも課題である。