人工島見直しは市民の声に応えることができるのか

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 人工島見直しが始まっています。既に5回の検討委員会が開かれているとのことですが、その詳細は明らかではありません。市のスケジュールでは、3月に副市長と市幹部、若干名の外部委員で構成で検討委員会を立ち上げ、6月に中間報告、中間報告についての市民意見募集、9月に最終報告、最終報告について市民意見募集、最終的には市長が判断となっています。
 検証の対象は人工島事業については、山崎前市長が平成16年(2004年)に作成した事業計画となっています。視点として、
・市民にとって良好な街づくりの促進に繋がると見られる民間事業者等の立地については、積極的に取り組む。
・九州・西日本の経済活動や市民生活を支える港湾機能の充実・強化は重要であるため、必要な整備は進めてゆく。

 市立病院統合移転の検証・検討については、検証の対象は「新病院基本構想」となっており、構想過程を振り返って、合理性や客観性を検証すると共に、現時点における本市にふさわしい新病院のあり方や整備場所などの方向を検討、となっています。

 人工島事業及び病院の統合移転の見直しをするに当たり、まず平成16年に策定された人工島「新新事業計画」の経緯を見なければなりません。平成元年(1989年)につくられた港湾計画に基づき平成6年(1994年)に着工した人工島事業は、平成14年(2002年)に変更されました。この変更が現計画(平成16年の新新事業計画)のものになっています。

 平成14年に計画がなぜ変更されたのか、それは当時の銀行団が人工島事業への融資(博多港開発(株)への融資)を拒んでいたために、融資継続させるために平成13年3月に山崎前市長が銀行団に「銀行には決して損はさせない」と念書を書き、同年8月に銀行団と博多港開発(株)との協定書において福岡市が具体的な損失保証を約束ました。具体的には、①博多港開発に福岡市が30億円の増資、②売れない土地は全て福岡市が買い取る(具体的な土地の販売時期と価格を市が提示するとなっている)、③道路や下水道、公園などの整備は市が公共工事として行う(博多港開発が開発者として整備し、その整備費は土地代に反映されることになっていた)、④博多港開発が銀行への返済ができない場合は福岡市が貸し付けし確実に返済する、そのために200億円を予算化する平15年に福岡市は87億円を貸付)、となっています。この密約を具体的に実行するために平成14年に事業計画を大幅に変更し、当初の計画になかった15㌶もの大規模公園を造ることになったのです。これを機に、次々と税金が注ぎ込まれることになりました。病院統合移転もこの損失保証の一環として進められてきました。

 今回見直しの対象としている平成16年の事業計画は、土地処分の見込みがないために再び銀行団は融資を渋ったために再び平成14年の計画を変更したものです。その内容は博多港開発第2工区については長期的・安定的に事業を進めるために買い取りが必要と屁理屈をつけ、平成17年2月に博多港開発第2工区を福岡市が396億円で買い取りました。しかし、ここでも銀行団は確実に土地処分を進めるための条件を付け、更に博多港開発が銀行団へ返済出来ないときには福岡市が貸付を行い、確実に銀行団へ返済させるために100億円を福岡市に予算化させることになっています。平成19年度(2007年度)予算でも実行されています。

 港湾整備についても将来の需要予測が的確に判断されているのか疑問です。世界的な物流の変化を見ればハブ港湾でない博多港には大型コンテナ船の寄港は減り、ガントリークレーンや上屋、コンテナヤードの需要は増えることはなく、博多港は既に過剰整備となっています。現に6万トンクラスのコンテナ船の入港は減っており、RORO船(コンテナの積み込み・積み降ろしを直接トラックで行うのでクレーンはいらない)をはじめとして1万トンクラスのコンテナ船が増えています。現状でも港湾特別会計は悪化することは明らかであり、港湾整備のあり方を抜本的に見直す必要があります。

 土地処分の見通しがないため銀行団が融資をしない、また港湾整備も物流の現状とかけ離れていることなどこれまでの経緯を見れば、人工島事業は破綻していると見るべきです。現在博多港開発第1工区の土地処分は順調に進んでいるように見えますが、埋立原価(道路等を公共事業で行っているため埋立原価は12万円/㎡になっている)を割った格安な土地処分(住宅地は平均7万円/㎡、業務用地12万円/平米)と、様々な補助金やビジネス創造センターなどの市の事業を行うなどの税金投入で進められています。このようなあり方をどのように見直すのでしょうか。

 以上の経過を見たとき、山崎前市長が銀行団と交わした「決して銀行には損をさせない」という念書及び念書に基づく損失保証の密約が現在も生きています。この念書及び密約を破棄しない限り、人工島事業は従来通り進められ、市民の意思に反した税金が注ぎ込まれることになります。どこをどのように見直しをするのか、私たちはキチンと見ていく必要があります。

 また、人工島事業の見直しは街づくり・環境問題でもあります。100万人を超える大都市に和白干潟のような干潟を持つ都市は世界的にも稀です。また近年世界的にも干潟は開発によって減少しており、干潟を保全することは地球環境を守るためにも重要なことです。私たちは市第5工区(旧博多港開発第2工区)を干潟として復元し、和白干潟と一体的な干潟として保全すべきと考えています。干潟として復元・保全すると共に、環境教育やエコツーリズムとして活用することで市民の財産として残すことができます。しかし、今回の見直しにはこのような視点があるようには見えません。街づくり及び環境政策の視点が必要です。