吉田市政1年を見て

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 昨年の市長選で山崎前市長を破り吉田市長が当選しました。山崎前市長の敗因はオリンピック招致をしようとしたことと人工島事業が敗因でした。吉田市長の選挙公約は①人工島事業の見直し、②子ども病院の人工島移転を見直し、③留守家庭子ども会の無料化がでした。この問題は要は税金の使い方の問題であり、街づくりの問題といえます。

 三位一体の改革によって地方交付税・補助金が削減され、地方自治体の財政は厳しさを増しています。2005年度決算で市民の借金2兆6500億円、市民一人当たり195万円と福岡市の財政も今後とも厳しい状況が続きます。先日公表された実質公債費比率(一般会計以外の借金も含めた市財政全体の借金額を現す)は23%と極めて悪い状況です。山崎前市長は2004年に既に財政健全化策wo
出していました。財政再建策の骨子は①市長部局の政策に重点的に投資、②局予算に局の裁量権を認めると同時に各局10%の予算削減、③人件費の抑制・職員の削減、④公共施設の民営化及び指定管理者制度等民間導入、⑤受益者負担の論理による新たな市民負担や使用料・手数料の値上げでした。オリンピック招致問題及び人工島事業推進、留守家庭子ども会有料化はこの方針に沿ったものです。つまり市長選での争点は財政健全化のあり方であったと言えます。

 では、吉田市政はどのように動いているでしょうか。結論から言えば、市長選挙の公約は次々と反故にされようとしているといえます。人工島の見直しがなされていますが、9月に出された検証・検討結果報告では、人工島事業は従来通り続けるとしています。では何を見直したのでしょうか。そもそもこの検証・検討の前提は「埋立をして土地処分をしなければこれまでの費用が回収できない。売れない土地をいかに売るか。」ということになっています。6月の中間報告では課題は、①人工島の土地処分は難しい、②企業誘致も難しい、③土地処分を前提とした事業計画は問題がある、としていましたが、検証・検討結果は具体的な対策は示されておらず、願望でしかばりません。アジアビジネスゾーンをセンター地区として商業施設を誘致しにぎわいをつくることで企業誘致を促進する、企業立地交付金の拡充、定期借地権、土地の証券化などが示されていますが、何ら目新しものはありません。土地の証券化は山崎前市長がコンサルタントに調査依頼していますが、人工島の土地証券化は難しいという結論が出され、昨年は照葉地区で土地の証券化に失敗しています。市民が「見直し」を求めたものは、埋立がまだ6割しか終わっていない人工島の現状を踏まえて、今後どうするかということでした。現状を出発点とする見直しの筈が、「これまでの費用をどうするのか」という理屈に引きずられ、結局は今まで通りとなっているのです。過去の責任問題とこれからの事業のあり方が切り離せない、「一度決めた明確は変更できない」開発推進勢力を打ち破れない、破ろうとしない姿勢が見えます。9月議会の「ズルズルと何もしないことが問題だ」という答弁や10月5日開催での吉田市長の「これまで進んでいる事業は今更止められない。今更海に帰せと言うのか。」という発言はまさに山崎前市長と同じ理屈です。もっとも山崎前市長は昨年のケヤキ庭石裁判のコメントで「見直しをするとしたときから事業は従来通りすすめと決めていた」と居直りの発言をしていたことに比べればまだマシかなという程度。現状から出発するのであれは、ズルズルと見通しもない事業にお金を注ぎ込むことは止めるべきであり、これまでの費用は市長以下福岡市と議会が責任を取るべきで、これまでの費用を回収しなければと言う理由は事業継続の理由にはなりません。

 子ども病院の移転見直しも同様です。6月の中間報告では福岡市の医療環境の変化、工営病院の役割、財政問題の視点からの見直しを整理しています。検証・検討結果は、①病院統合の中止、②子ども病院の機能拡充、③経営主体の検討を挙げていますが、なぜか人工島に移転が結論づけられています。子ども病院の人工島への移転理由は、項目毎に数値評価をした結果最も点数が高かったとしていますが、評価基準そのものが恣意的なもので合理性がありません。10月5日の検証・検討結果報告会場で、利用者や関係者が検証・検討に参加していない問題、現地建て替えも可能であり、利用している市民の多くは利便性の高い現地改築を望んでいることが主張されました。要は市民の声を聞く耳を持っているのかが疑われる結果です。

 留守家庭子ども会の無料化の問題も、市長就任直後の議会でも「受益者負担」を容認しており、基本料金の無料かはするが課時間延長などは有料化すると答弁していました。3月議会では基本料金の無料化さえ自民党・公明党の反対で否決されましたが、最近の発言では「留守家庭子ども会無料化を支持した人たちだけが私に投票した訳ではない」と市長自身が現状を変えようとする意志が弱くなっていることを感じます。

 吉田市長は来年には新たな財政健全化策を発表するとしています。しかしこの間の福岡市の動きを見ると、山崎前市長の方針と基本的には変わっていません。取りあえず保育園の民営化は凍結していますが、指定管理者の導入は進められ、福岡市では既に本庁及び区役所の窓口業務では派遣職員が採用されており、市民病院の民営化が俎上に上っています。財政健全化を進めるためには歳出削減は必要です。問題はどこを削るのか、市民への説明責任が問われています。歳入確保として、市民負担を求めるならば市民に納得ができる説明が必要です。今回の人工島事業の見直しは、どこに優先的に税金を使うべきかが議論され泣けばいけない問題でした。銀行でさえ見放した人工島事業をズルズルと続けて税金を投入することが市民のためになるのか、埋立が終わっていない市第5工区(福岡市が博多港開発から399億円で買い取った95㌶)は干潟に戻し、博多湾の自然を生かしたまちづくりを進めることこそ市民の財産になります。埋立地を湿地に戻し地域の活性化に活用する例は、イタリア・アドリア海沿岸のポー川河口埋立地の例に見られるように世界的には決して稀なことではありません。福岡市の街づくりの視点から大胆な発想が求められています。

 福岡市においても財政健全化は急務です。そのためにはどこを削り、どこに優先的に税金を使うのか、市民合意が必要です。今年4月から所得税から市民税へ税源移譲が始まりました。同時に一般財源化が進みます。これまで福祉や教育については国が使途を決めていましたが、今後は自治体の裁量によって使われ方が変わります。先日NHKの報道で、子どものために交付された図書費が、財源豊かな千葉県浦安市では子どものために100%使われているが、青森県の小さな街では30%しか子どものために使われていない実態が報道されました。このように、これまで以上に自治体間の格差が広がります。吉田市政が本当に市民の目線で市政を行おうとしているのか、人工島事業見直しはその試金石でした。吉田市政1年を見ると残念ながら「山崎前市長とどこが違うのか」としか言えません。