民主党栃木議員の住民投票に反対する討論を検証

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民主党の「福岡市立こども病院の人工島移転の是非を問う住民投票条例案」反対の理由は民主主義を否定するもの。

 昨年(2008年)11月18日、19日に「福岡市立こども病院の人工島移転の是非を問う住民投票条例案」の審議を行うための臨時議会が開催れました。自民、公明、民主、みらい福岡、福政市民クラブの反対で否決されました。その理由について与党民主党の栃木議員の反対討論を検証してみました。
 
 栃木議員は「法律論の観点から妥当性を欠き、かつ政策的合理性の観点からも非現実的であると評価し、当該条例案に対する反対討論を行う」といっています。その理由について以下検討しました。

1、 第一の理由は、住民投票実施をめぐっては解決されるべき諸問題が多く、今日においても制度設計が国レベルで確立していないという点であります。
 国としての制度設計ができていないということが住民投票を否定する理由であるとすれば、国が法律を作らないかぎりなにも判断しないということになります。地方分権が議論され、地域の問題は地域で解決することが求められています。国の制度設計ができていないことを反対の理由にするとすれば、地方分権の流れに反するものです。
 これまでの多くの公害事件や消費者問題を見ても、現実に起こってた問題を解決するために、法の欠陥を是正するために住民や被害者が時間をかけて闘い、その結果法が改正されるという歴史があります。住民投票については新潟県巻町を始め多くの自治体で住民投票は実施されており、住民自治のあり方として福岡市議会として住民投票を自らの判断で実施に向けての議論をすべきではなかったかと思います。法制化されていないから住民投票はすべきではないということではなく、地方から国を変えていくことこそ必要なことです。

2、駒澤大学法学部教授の大山礼子氏の意見が妥当性を持つのか
 栃木議員は住民投票の問題点として、 「次に、住民投票の制度化にあたっての課題ですが、駒澤大学法学部教授の大山礼子氏は、わが国において住民投票を実施する際の課題として、①有権者は、たいていの場合、適切な判断を下すために必要な情報をもたず、専門的知識が少ないほか、ムードや感情に左右され、合理的・長期的な判断が難しい点、②住民の意見は単純なものではなく、人によって微妙なニュアンスの差があるのが普通で、二者択一の設問では住民の総意ははかりがたい点、③住民投票による政策決定は、いわば「責任者不在」であって、首長も地方議会の結果について説明責任を負う必要がない点、④住民投票は地方議会における議論や結論に至る過程を軽視することになるという点、⑤住民投票は少数者の権利を侵害する決定が為される危険性がある点の5項目を指摘しております」と駒澤大学法学部教授大山礼子氏の意見を取り上げています。
では今回の住民投票についてはどうでしょうか。

①有権者は、たいていの場合、適切な判断を下すために必要な情報をもたず、専門的知識が少ないほか、ムードや感情に左右され、合理的・長期的な判断が難しい点、

 こども病院人工島移転問題は前山崎市長の時からの問題であり、市長選挙でも争点になってきた問題です。突然降って湧いた問題ではありません。こども病院人工島移転反対の署名数は17万人を超えており、多くの報道がなされ、市の説明会もなされています。このような状況で、今回の「福岡市立こども病院の人工島移転の是非を問う住民投票条例案」について市民は十分な情報をもっていなかったといえるのでしょうか。また多くの小児科医や産科医がこども病院人工島移転に反対してきましたが、小児科医や産科医の方たちは専門的知識を持たなかったのでしょうか。多くの市民がムードや感情に左右され、合理的・長期的な判断ができないと言えるのでしょうか。もしそうであれば人工島事業及びこども病院人工島移転が争点となった市長選挙の結果は民意を反映していないことになります。また、選挙制度そのもを否定することに繋がりかねません。

②住民の意見は単純なものではなく、人によって微妙なニュアンスの差があるのが普通で、二者択一の設問では住民の総意ははかりがたい点、

 住民投票が二者択一では住民の総意がはかれないとしていますが、そんなことはありません。憲法でも国民投票の仕組みがあり、また、海外でも住民投票や国民投票が様々な問題について実施されています。また日本の自治体でも数多く住民投票が実施されていますが、いずれも二者択一です。具体的な政策の是非を問うため、二者択一の形を取りますが、投票行動を通じて何故必要なのかという議論が深められます。今回のこども病院の人工島移転問題は長期にわたり市民の間で議論されたきたものであり、二者択一をもって市民の総意にならないとすることはおかしいことは明らかです。

③住民投票による政策決定は、いわば「責任者不在」であって、首長も地方議会の結果について説明責任を負う必要がない点

 住民投票による政策決定は住民の意思であり、説明責任は政策を発議する住民自身にあります。そもそも首長および地方議会は議員は住民によって選ばれ、住民が政策決定を付託するためであり、そのことは住民が住民発議による政策決定を否定するものではありません。地方自治法でも小規模自治体では議会を置かず住民総会を設置することができることになっていることも見ても、住民による直接民衆主義が基本であることが読み取れます。

④住民投票は地方議会における議論や結論に至る過程を軽視することになるという点、

 こども病院の人工島移転は市長選の争点となり、その後も17万人もの移転反対の署名、大多数の小児科医や産科医の移転見直しの申し入れ、福岡地区小児科医会でのこども病院人工島移転反対の決議、30,545名もの有効署名による住民投票条例制定の直接請求、このような市民の声を無視してきた議会にこそ問題があります。
 そもそも議会でキチンと検討されてきたのかも疑問です。滋賀県近江八幡市における医療センター移転による病院事業の破綻事例を検証して欲しいものです。市民や様々な関係者の声を無視してた結果、福岡市も同じような道を歩むと思われます。

⑤住民投票は少数者の権利を侵害する決定が為される危険性がある点

 様々な利害が対立するからこそ市民全体の総意をもって政策決定がなされる必要があるのであり、「少数者の権利を侵害する恐れがある」ことをもって住民投票を否定する理由にはなりません。そもそも全ての政策で「少数者の権利を侵害する恐れがない政策」はありえず、十分な議論の上、公共の福祉にかなう政策決定が必要となります。公共の福祉にかなうのか否かは議論され、最終的には多数決によることになります。その場合、少数者に必要な権利の保障がなされるべきであることは当然です。住民投票を「少数者の権利を侵害する恐れがある」という理由で住民投票を否定することはおかしなことです。

3、 東京大学名誉教授の原田尚彦(なおひこ)氏は、「住民投票という直接民主主義の手法は、議会制民主主義が機能不全に陥った場合これを矯正し、自治を復元する道を開く、いわば補足的な制度である」とも指摘しており、すなわち、住民投票を実施するには「議会が機能不全に陥っている」と認められる事象が発現されることが前提であることを指摘しています。

 こども病院の人工島移転は市長選の争点となり、その後も17万人もの移転反対の署名、大多数の小児科医や産科医の移転見直しの申し入れ、福岡地区小児科医会でのこども病院人工島移転反対の決議、30,545名もの有効署名による住民投票条例制定の直接請求がなされました。この市民の声を無視するする議会はまさに機能不全といえるのではないでしょうか。
 しかし、議会が機能不全に至らなくても、市民生活に重要な影響を及ぼす事案については住民投票で決める制度は必要です。首長や地方議会議員の選挙に於いて全てを白紙委任している訳ではありません。政府の地方制度審議会でも議論している中身は、議会の機能不全を問題にしているのではなく、民主主義の制度としての議論です。海外では議会の機能不全の問題ではなく、住民発議という形で様々な住民投票が実施されていますが、住民投票が民主主義を支える制度であることの現れです。

4、「第二の理由は、本市議会におけるこれまでのこども病院のあり方に関する議論を軽視しているという点です。」について

 こども病院の人工島移転は市長選の争点となり、その後も17万人もの移転反対の署名、大多数の小児科医や産科医の移転見直しの申し入れ、福岡地区小児科医会でのこども病院人工島移転反対の決議、30,545名もの有効署名による住民投票条例制定の直接請求、この市民の声を無視するする議会こそが問題です。

5、「第三の理由は、本条例案においては市の病院事業計画に対する合理的な反論がほとんどなされていないという点です。」

 これまでもこども病院人工島移転問題は市民の間では問題となっており市長選挙での争点になりました。こども病院人工島移転の反対の署名、請願、市議会議員や市長への申し入れなど、市民、小児科医、産科医など様々な形でキチンと申し入れや資料配付をしており、栃木銀の発言は事実をねじ曲げています。

6、「最後に、こども病院は福岡市全域の子どもたちの医療のみならず、九州を超えて西日本全域の子どもたちにとっての「最後の砦」とも言うべき小児専門の病院でもあります。そのような重要な施設が本市に存在し、それを運営していることをわれわれ福岡市民は誇りに感じ、そのような誇りを抱くに相応しい医療機能を備えた病院を整備していくことが本市の責務であるという所見も申し添えておく」

 市内の多くの小児科医や産科医、患者・家族、市民の総意を無視することではたして立派な病院を建設することができるでしょうか。

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民主・市民クラブ 栃木義博市議会議員
「福岡市立こども病院人工島移転の是非を問う住民投票条例」案に対する反対討論

 私たちは、本議会に提出された「福岡市立こども病院人工島移転の是非を問う住民投票条例」案が、法律論の観点から妥当性を欠き、かつ政策的合理性の観点からも非現実的であると評価し、当該条例案に対する反対討論を行うものであります。その理由について、順を追って下記に申し述べます。

 第一の理由は、住民投票実施をめぐっては解決されるべき諸問題が多く、今日においても制度設計が国レベルで確立していないという点であります。現在、内閣府に設置されている地方制度調査局においては、昭和51年の第16次制調から平成12年の第26次地制調にわたって住民投票制度のあり方について議論されていますが、住民投票制度のあり方について議論されていますが、住民投票について議論されたものとしては最新の第26次地制調における「地方分権時代の住民自治制度のあり方及び地方税財源の充実確保に関する答申」においても、住民投票制度の一般的制度化については、「住民投票の対象とすべき事項、選挙で選ばれた長や議会の権限との関係、投票結果の拘束力のあり方等、種々の検討すべき論点があり、一般的な住民投票の制度化については、その成案を得るに至らなかった」として、更なる検討が必要であることが指摘されています。さらに、平成16年5月に地方分権改革推進会議より提出された「地方公共団体の行財政改革の推進等行政体制の整備についての意見」書においても、「今後、一般的な住民投票の制度的枠組み等の検討を深めるに当たっては、制度設計を国の法律で定めるか地方の条例にゆだねるか、住民投票の発議における首長や議会の判断の余地をどの程度とするか、住民投票の対象事項をどうするか、住民投票の結果に拘束力を持たせるか、投票の成立要件をどうするか、現行の直接請求制度との関係などについて、意見の集約を図る必要がある」として、住民投票実施にあたっては、今もなお整理されるべき課題が多いことが指摘されています。
 それだけ、住民投票のあり方というものが政治論的、または法律論的に整理することが難しい課題であることを示唆するものでありますが、諸々の学説において、住民投票制度がどのように位置付けられているか、なぜ住民投票を制度化することが困難であるかという点を、識者の指摘を引用して、下記に具体的に述べたいと思います。
 まず、住民投票という制度そのものに対する考え方でありますが、東京大学名誉教授の原田尚彦(なおひこ)氏によれば、「現行の地方自治は、間接民主主義を基本とし、直接民主主義の諸制度は、間接民主主義を補完しその欠陥を矯正するために限定的に認められた例外的制度にとどめている」と、住民意思の直接の発動によって決定される住民投票については法律論の立場から行き過ぎた解釈に警鐘を鳴らしています。また、同氏は、「住民投票という直接民主主義の手法は、議会制民主主義が機能不全に陥った場合これを矯正し、自治を復元する道を開く、いわば補足的な制度である」とも指摘しており、すなわち、住民投票を実施するには「議会が機能不全に陥っている」と認められる事象が発現されることが前提であることを指摘しています。
 そこで、果たして福岡市議会が「機能不全に陥っているか否か」が住民投票を実施する際の判断基準として考えられますが、私たちをはじめ責任ある会派は議会において、こども病院のあり方については長い時間を掛けて論点を整理すると共に、慎重な議論を重ねてきたところであり、良識ある議会人としては到底受け入れることの出来ない見解です。これまでの議会における議論の詳細については後述いたしますが、何をもって議会が「機能不全」に陥っていると判断されるのかについては、直接請求の内容からは読み取ることが出来ません。
 次に、住民投票の制度化にあたっての課題ですが、駒澤大学法学部教授の大山礼子氏は、わが国において住民投票を実施する際の課題として、①有権者は、たいていの場合、適切な判断を下すために必要な情報をもたず、専門的知識が少ないほか、ムードや感情に左右され、合理的・長期的な判断が難しい点、②住民の意見は単純なものではなく、人によって微妙なニュアンスの差があるのが普通で、二者択一の設問では住民の総意ははかりがたい点、③住民投票による政策決定は、いわば「責任者不在」であって、首長も地方議会の結果について説明責任を負う必要がない点、④住民投票は地方議会における議論や結論に至る過程を軽視することになるという点、⑤住民投票は少数者の権利を侵害する決定が為される危険性がある点の5項目を指摘しております。
 私たち民主・市民クラブは、住民投票が、住民の意思を確認するために非常に重要な手段であり、適切に利用すれば代議制民主主義を補完して住民の意思を政治に反映する有効な手段になりうる点については否定するものではありません。しかし、以上述べてきたとおり、現行制度による住民投票については民意反映の客観性や法的効力に課題なしとは言い切れない問題をはらんでおり、今後十分な議論による合意形成が必要であると考えます。
 
 第二の理由は、本市議会におけるこれまでのこども病院のあり方に関する議論を軽視しているという点です。福岡市議会においては、昨年本市がアイランドシティ検証・検討作業を表明して以降、市立病院のあり方について医療機能、療養環境、経営形態を含め様々な角度から議論がなされてきました。平成19年第1 回定例会から本年9月に行われた平成20年第4回定例会までの議論に限っても、延べ39人の議員が本会議場で質疑を行い、また特別委員会や各分科会、および各常任委員会における議論も含めると、810項目にもおよぶ質問がなされており、十分な審議を重ねてきたところであります。議論の視点に関しては、新病院の整備場所のみならず敷地面積、担うべき医療機能、移転に伴う小児医療の配置バランス、交通アクセス、医師等人材の確保、整備費用、経営形態、収支見込み、病院事業の財政健全化、市民間意見・医療関係者の意見の受け止め方、病院事業運営審議会答申の受け止め方、アイランドシティ整備事業検証・検討に関すること、新病院事業の進め方等、多くの視点から議論を尽くしてきました。
 その結果、その中でもこども病院のアイランドシティへの移転で懸念されていた「病院への交通アクセス」の問題に関しては、自動車専用道路の整備についてはその必要性を多くの会派が市に強く主張し、行政も具体化に向けて作業を進めているところであり、現こども病院移転後の西部地域における医療バランスの問題に関しても、議会における指摘により周辺医療機関との連携を協議するための会議体設置を市に促し設置にこぎつけるなど、議会での質問や討論を通して、議会はその役割を最大限に果たしてきたところであります。
 ところが、本議会で提案された条例案においては、議会における討論の過程を軽視して市民に二者択一の判断を迫る内容となっています。議会制民主主義のもとでの政策決定においては、単に表決の結果だけが重要なのではありません。表決に至るまでの討論を通じて問題点を明らかにし、他人の意見を参考にしながら自分の意見に修正を加え、必要とあれば互いの歩み寄りと妥協によって合意に達するプロセスそのものに評価があるのです。一部の限定的な主張のみで、先に述べられた様々な論点や、議会における議論のあり方についてなんら触れられていない本条例案は、議会人として断じて容認できるものではありません。
 
 第三の理由は、本条例案においては市の病院事業計画に対する合理的な反論がほとんどなされていないという点です。本市は、市立病院経営者の在り方を根本から検証するという市長公約に基づき「現こども病院の建て替えを機に、医療水準の向上と療養環境の確保を図り、経営改革を推し進めることにより、新しい時代にふさわしい医療を提供する」ことを第一義的に考え、当該目的を実現するためにはどのような場所がふさわしいかという手順で、アイランドシティが移転先として最適であるという結論を導いています。その際、複数の候補地との比較検討を、数値を用いて論理的に行い、その結論に対しての合理性は担保されていると評価しています。また、移転によって発生する様々な課題については、それを如何に解消、あるいは最小化するかという視点から議論を行い、その解消策についても明示してきたところであります。
 ところが、本議会で提案された条例においては、それら合理的な市の説明に対してなんら論理的な反論を行うことなく、単に病院移転地の是非のみを問うという、結果的に議論の矮小化を図る内容になっています。政策論の観点からすると、論理的な反論も無いままアイランドシティへの移転の是非のみを問うような住民投票の実施は、一貫性、展望性に富んだ本市の総合行政が維持できない可能性が高く、到底賛成できるものではありません。
 以上の理由から、本議会に提出された「福岡市こども病院人工島移転の是非を問う住民投票条例」案に対しては反対の意を表明するものでありますが、最後に、こども病院は福岡市全域の子どもたちの医療のみならず、九州を超えて西日本全域の子どもたちにとっての「最後の砦」とも言うべき小児専門の病院でもあります。そのような重要な施設が本市に存在し、それを運営していることをわれわれ福岡市民は誇りに感じ、そのような誇りを抱くに相応しい医療機能を備えた病院を整備していくことが本市の責務であるという所見も申し添えておくとともに、私たちの主張に対しまして、議員各位、並びに140万市民の皆様の御賛同を賜りますよう強くお願い申し上げて、私の討論を終わらせていただきます。