学校跡地利用調査

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調査目的
 福岡市において児童数の減少により小学校の統合が行われ廃校が生じている。そのような中で廃校が予定されている大名小学校の跡地利用を巡り、地域住民や議会でも様々な意見が出されている。廃校跡地利用については個別対応で、福岡市としての指針はない。大名小学校跡地利用の意見を聞く中で京都市の廃校跡地利用についての話を聞く機会があり、今後の福岡市における廃校跡地利用の議論に資するために調査することとした。

日時 2013年7月29日15:30~16:30
場所 京都市役所京都市会会議室
説明員 京都市総合企画局市民協働政策推進室  
    中辻修也プロジェクト推進第一課長 
小野利恵プロジェクト第一係長

1、京都市における学校跡地利用の背景
 京都市の小学校は、幕末の動乱時に街が消失し、明治維新後東京遷都という情況の中で、京都の復興策として全国に先駆け明治2年中に次々と開校した。当時新たに編成された自治の単位である「番組」毎に、住民の寄付を得て開校された。「番組」とは室町時代から続いた様々な構成、規模、形態であった町組を均等化するために編成し直された自治組織と言われている。小学校は教育の場だけでなく、集会所や交番、消防、保健所など様々な行政機能及び自治機能を持ち、地域コミュニティの核となる場所であった。この総合庁舎的な小学校の備品の費用は住民の負担であり、このことが小学校は「番組のもの」「学区のもの」という意識を作った。この様な経過の中で小学校を中心とした地域住民の市民社会が形成され、小学校単位の自治組織ができてきた。
 京都市中心部では昭和30年代をピークにドーナツ化が起こり、中心部での児童減少が始まった。平成4年から京都市の中心部にある小学校の統合が始まり、平成6年「都心部における小学校跡地の活用についての基本方針」を策定し活用を図ってきた。当時は中心部の29校が9校に統合され、20行の廃校ができた。そのうち10校については跡地利用が行われた。その後更に小中一貫校設置など中心部以外での統合が行われ廃校跡地が生まれた。新たな状況に対応するため、平成23年に新たに「小学校跡地活用の今後の進め方の方針」が策定された。現在対象学校跡地は19ヶ所となっている。

2、学校跡地の利用の考え方
 平成6年策定の「都心部における小学校跡地の活用についての基本方針」では歴史的背景と小学校が地域コミュニティの核になっていることを十分に配慮し、新京都市基本計画を踏まえ21世紀に向けて新しく生かしていくとした。活用の指針として「広域的な街づくりのための活用」「身近な暮らしのために活用する跡地」「将来の需要に備えるための跡地」と均衡を図ることとした。事業手法は原則市の事業として行うとし、国立施設の誘致や第三セクター、公有地信託制度の活用など多様な手法を導入するとした。
 事業策定手順については、地域の街づくりの方向性や広域的な街づくりに対して地域が担う役割など地域住民とともに考えるとし、市民、市会、学識経験者等で構成する跡地活用審議会を設置、庁内に検討委員会を設置して地元意見の聴取、調査、検討を行い審議会の原案作成をする。学校跡地は事業が確定するまで地域での使用は認められ、事業策定後も地域のコミュニティ活動に配慮したものとなっている。
 これまで国際マンガミュージアムや京都芸術センター、学校歴史博物館の文化施設、デイサーサービスセンターや特別養護老人ホーム、在宅介護支援センターの福祉施設、幼稚園、子育て支援総合センター、ひと・まち交流センター、救急救命センターなどの医療施設が平成18年までに学校跡地10ヶ所に設置された。施設が設置された場所では従来の自治機能が維持できるように、集会所のスペースや運動場の使用が出来るように配慮されている。
 「学校跡地基本指針」策定17年を経過し、学校跡地を巡る環境の変化に対応するため平成23年に「小学校跡地活用の今後の進め方の方針」を策定した。「今後の進め方の方針」では、これまでの「学校教育活動への配慮」「地域コミュニティへの配慮」「建物の歴史的・文化的価値への配慮」を基に、公共・公益的な団体による事業、民間事業も対象とすることとした。事業の優先順位を①市事業②公共的・公益的団体による事業③民間事業の純とした。活用に当たっての考え方として、選定基準は市の政策課題への対応に資する事業や地域の活性化に資する事業とし、原則として跡地の売却は行わない、部分的活用も認めるとした。
 具体的な事業の進め方として、常時事業提案を受け入れ事前相談を受け付ける。教育委員会学校統合推進室が窓口となり、事前相談、調査及び地域の意見聴取を行い、その結果については京都市学校跡地活用検討委員会で提案を審議。審議会で公募型プロパーザルの実施の可否を検討し、公募することが決まれば提案者以外の事業者も含め公募を行い、外部組織のプロポーザル手続き審査委員会で審査し契約候補者を決定。その後事業者、地域、市との三者協議を持ち契約・事業開始となる。それぞれの手続き段階において地域と事業者との協議がなされる。現在、漢字博物館・漢字図書館・文化研究所の提案一件が公募型プロポーザルに応募されているとのことである。

調査結果
 京都市における学校跡地利用は、「番組小学校」と言われるように地域の自治組織の中心にあった歴史的経過を受け継ぎ、地域住民のコミュニティを財産として残しながら京都市の発展に活用している。歴史的、物価的価値を配慮し、場所の特性を生かした広域的な利用としての文化施設や子育て支援や医療施設、地域を活性化するために幼稚園や福祉施設、そして将来の需要に備えて公有地として確保している。これは全て地域との協議の中で進められ、できあがった施設にも地域の自治活動が継続できるよう配慮されている。 
 この背景には京都の特殊な歴史的経緯があるものの、同時に普遍的な要素も含んでいる。中心部の「番組小学校」だけではなく、周辺部の歴史が新しい学校跡地も同様の措置が執られている。小学校が地域自治組織の中心である状況が普遍的に生まれていることによる。 この様な京都の学校跡地利用を見ても、学校跡地は貴重な公有財産であり、地理的にも利便性の高い場所にあるものが多い。学校跡地利用は街づくりとして重要な要素である。場所の特性に応じた利用と、地域住民のコミュニティの中心としての存在を生かしていくという視点から跡地利用は原則売却しない方針はうなずける。京都市では地域コミュニティの維持と学校跡地利用がうまく機能しており学ぶべきものがある。加えて、財政状況が厳しくなっていることや高齢化が進み児童数の減少、中小一貫校の設置など新しい情況似対応して、これまでの市の施策から民間活用へ検討を広げたことも機動的な判断と言える。
 京都市の学校跡地利用は、一貫していることは地域住民等の対話の中で事業を進め、安易に行政の都合で土地処分をしないという基本方針にある。昨今地域コミュニティの弱体化が課題となっているが、小学校を地域の中心に据えて街づくりをしていく姿勢は京都の歴史的特異性と言うことだけではなく普遍性があると考える。、福岡市においても大名小学校に限らず学校跡地利用についての議論をすべき時に来ている。