北九州市「おでかけ交通」

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1、おでかけ交通
1)事業の経緯
 おでかけ交通が始まったきっかけは、1999年に八幡東区枝光地区において地域住民と地場タクシー会社である光タクシーによって枝光本町商店街を起点とした乗り合いタクシー運行が提案されたことからである。2000年10月から試験運行、2001年4月から本格運行がされた。枝光地区は急傾斜地で道路が狭隘であり,路線バスは一部しか運行されていない交通空白地帯である。この枝光地区の事例を基に、2003年4月から小倉南区合馬・道原地区、平尾台地区、八幡西区木屋瀬・楠橋・星ヶ丘地区の3地区で路線バス廃止に伴う代替交通として「おでかけ交通」制度を確立した。現在、路線廃止対策地区として6地区(1地区が代替対応で休止)中、高台地区対策として2地区の計8地区で実施、2014年度から2地区が試験運行。

2)おでかけ交通の仕組み
a対象地区
 ①バス路線廃止地区や高台地区などの公共交通空白地区
 ②高齢化率が市の平均を上回る公共交通空白地区など

b手段
 地域の状況によりマイクロバス※、ジャンボタクシー、タクシーを運行
 ※マイクロバスは小倉南区合馬・道原地区で当初小学生の通学にも使っていたが、小学  生が減ったため現在はジャンボタクシーとなっている。 

c運行形態
 地域のニーズに合わせて運行車両および運行時刻・便数を事業者と住民で決めている
 料金についても事業者と住民で協議の上決めている

d市の支援
 ①交通事業者が運行開始時に要する費用に最大460万円の助成
  車両購入費およびバス停の設置費等
 ②交通事業者が車両更新時に要する費用に最大300万円の助成
 ③交通事業者の収支が赤字の際、赤字の一部を助成
 ア助成金交付要件
  収支が赤字であり、運賃が200円以上かつ運行開始後1年以上経過していること
 イ助成内容
  運行経費から協賛金等を除いた経費に対する料金収入の比率(収支率)×赤字額
  事業者および利用地区住民の努力が反映する仕組みにしている
 ウ助成状況
  枝光地区は助成はゼロであるが他地区は年間100万円程度 
 ④2010年度より地域が主体となって試験運行する際に、既存事業と同じように赤字  の一部を助成
 ⑤運営委員会と事業との仲介等の支援

e運営主体
 地域住民組織で運営主体を作り、事業の可能性を検討、運行計画をたてる。地域住民組織としては町内会を中心とした運営委員会やまちづくり委員会が作られている。運営委員会は事業者との協議や、地域住民の運行時刻や便数などのニーズ調査を行う。市は運営委員会の活動について助言やアンケート作成に協力している。準備が進めば市が市内のタクシー協会に事業者の推薦を依頼して地域に紹介する。運営委員会に対する市の助成はないが、集会所等市の施設利用については減免措置がなされている。運営委員会の運営は地区によって異なり、枝光地区は年4回開催されているが他地区は年に1度である。運営委員会とは別に事業者と役員との意見交換の場がもたれている。

2)枝光地区の事例
 枝光地区は旧八幡製鉄所の従業員住宅地区として早くから開発された地区である。そのため坂道が多い上に道路が狭隘であり、車社会到来以前の町であるため駐車場を持たない家が多い。本町商店街には生活に必要な施設が集積していることから、商店街を起終点にしたジャンボタクシーによる乗り合いタクシーを運行することとした。13人乗りジャンボタクシー2台で、8時~18時の時間帯に5ルート、1日62便を運行。1ルートの所要時間は20分以内で運行している。料金は小学生以上150円均一。事業開始時の車両購入費の助成は受けているが、現在市から赤字補填は受けていない。乗り合いタクシーの停留所は平均300メートルほど。停留場の表記は道路が狭いために路上に表記している。
 当初は利用者が非常に多かったが、近年利用者の減少傾向にある。その原因は運転免許証をもった女性が増えたことで、高齢者になっても運転している例が多くなった。しかし、いずれその人達も高齢になれば利用せざるを得なくなり、利用者が増えるものと考えられる。運営委員会では利用者を増やすために回数券を売っているが、更に枚数を増やした回数券を作り販売に取り組んでいる。
 枝光地区が市から赤字補填がない理由として、当初から熱心な地域住民が計画に関わってきたことおよび運営委員会の取り組みが大きいとおもわれるが、光タクシーとして地域貢献の事業として努力していることにのあると思われる。光タクシーは「おでかけ交通」に取り組んだ副次的な効果として光タクシーの利用が増えているという話があり、社会貢献事業として多少の不採算部分もトータルに解消できている面があると考えられる。 

所見
 高齢化社会を迎え、移動のの確保は大きな課題である。交通空白地帯だけではなく、一定距離に公共交通があったとしても出来るだけ身近なところでの交通機関の確保は必要となる。枝光の取り組みはその点でもいくつかのことを示唆している。それは
①中央区鴻巣山周辺や早良区の陽光台などの高台における移動の確保の手段としてジャンボタクシーの運行が効率的であること
②美和台の実験の場合や利用者が少ないところではジャンボタクシーによる乗り合いタクシーが適していること
③交通空白地帯でなくてもジャンボタクシーによる乗り合いタクシーによる交通手段は高齢者や障がい者の移動手段として有効であること
 今回の調査で地域の移動手段を確保するためには、改めて熱心な地域住民の取り組みと地域貢献する事業者の存在が大きいことを感じた。