空き家バンクー綾部市

Pocket

20140506173740infiniteSize1371x789

調査目的
綾部市では子育て世代を中心に移住を進める政策として「空き家バンク」の制度を実施している。日経新聞の報道によると定着者の実績は長野県佐久市、金沢市に次いで3番となっている。福岡市でも早良区脇山など農山村部での人口減少が問題となっており、「空き家バンク」の取り組みは参考になると考え調査した。

調査日時 2014年4月21日13:30~15:00
説明員  定住交流部定住促進課 吉田清人課長

調査報告
1,取り組みの背景と経過
綾部市では昭和25年市制施行時の人口55,000人をピークに年々人口減少が続き、平成26年3月末日で35,601人となっている。近年5年間では年平均430人の減少となっている。近年価値観の多様化などライフスタイルを変更する人が出始め、田舎暮らしや農的生活に関心を持つ人が出てきた。綾部市では人口減少に歯止めをかけるため、このようなU・Iターンの若者を中心に定住促進の取り組みを始めた。
平成12年度WEB上に「里山ねっと・あやべ」を開設し、平成18年度には廃校を活用した宿泊施設であるとともに都市との交流施設として「幸喜山荘」を整備し、里山交流大学、森林ボランティア、イベントや田舎暮らし相談などの情報発信をしてきた。18年度から「水源の里条例」を制定し、限界集落を「水源の里」と名付け定住による限界集落の地域振興を促進する取り組みを始めた。平成19年にはを限界集落持つ市町村に呼びかけ、「全国水源の里連絡協議会」を立ち上げた。現在173団体が加盟。
平成20年度に企画部企画課に定住サポート窓口を設置し、空き家バンクを開設し、希望者相談活動を始めた。平成22年には産業振興部に定住促進課を設置し、定住サポート総合窓口を所管。平成23年度には第5次綾部市総合計画で「住んでよかった…ゆったりやすらぎの田園都市・綾部」を都市像として定住促進を第一の目標とし、定住目標を毎年15世帯とした。「交流から定住へ、定住化他地域進行へ」を目標として、交流担当の観光交流課、定住担当の定住促進課、地域振興担当の水源の里・地域振興課を配した定住交流部を設置した。
他方、人口減少に危機感を持つ住民による独自の活動も生まれている。志賀郷地区で無農薬有機農業をしている生産者が都市との産直ネットワークを生かして、地域独自で「コ宝ネット」を組織している。「コ宝ネット」は地域で管理する空き家バンクを実施して定住促進し、都市との交流イベントを開催、都市に情報発信している。この地区では小学校を廃校にしなくてもよい状況を維持することが出来ている。限界集落地域でも独自に「橋上の里」を結成し、住宅活用部会による定住促進と都市との交流イベントを行い、情報発信している。定住促進策としてネットで都市から3世帯限定で招待し、空き家見学会を行っている。
定住してもらうために、市の窓口や地域での都市との交流で地域のしきたりや約束事を理解してもらい、地域の活動に参加することを定住の条件としている。
平成25年に「綾部市に住んでみたくなる街定住促進条例」を制定、平成26年4月1日施行。定住促進の基本的理念を定め、全市的な定住促進の機運づくりを進めるとしている。住民自身がこれまでの地域のあり方を見直すことで定住希望者が住みやすい地域となるだけでなく、住民自身も住みやすくなると期待されている。

2、「空き家バンク」の仕組みと「あやべ定住サポート総合窓口」の活動内容
1)空き家バンク(平成20年度から実施)
①「あやべ定住サポート窓口」が市内の空き家所有者の登録を促し、所有者が空き家登録制度(空き家バンク)に登録。空き家の売買および賃借について法的な問題等の処理を円滑にするため、平成23年度から市商工会議所に依頼し、宅建業者が空き家の売買および賃貸を仲介する「空き家物件の仲介制度」実施。市商工会には委託費として年12万円支出、それ以外には支出はない。
市が直接所有者と接点を持つことは限界があるため、毎年一度地域の自治会長会(集落代表者)と懇談会を開催し、地域で空き家流動化に向けて取り組みをお願いしている。

②「あやべ定住サポート窓口」は都市に交流イベントや様々な情報を発信し、定住希望者の登録を受け付ける。現在559人。同時に、「あやべ定住サポート窓口」では地域情報の提供、定住相談および就職・就農相談など受け付け、定住支援を行う。空き家バンク設置した平成20年から空き家見学ツアーを行っている。年1回程度、20人程度の参加、5、6軒を見学。2月に実施することで、綾部の厳しい環境を知ってもらい定住を進めている。また、平成23年度から定住者のネットワークを作り、「定住者の集い」を開催することで定住者間の交流を深めている。「あやべ定住サポート窓口」では、定住者の様子を確認するために年1回の定住者戸別訪問を実施している。

2)空き家流動化助成制度
①空き家流動化報償制度
移住者が定住を目的として購入または賃貸した場合にオーナーに対して5万円を支給。平成23年度より実施

②空き家を活用した定住支援住宅の整備
集落の空き家を市が10年間無償で借り受け300万円を投じて改修し、市営住宅として移住希望者に貸し出すことで収入が少ない若い世代の農村定住を促す。平成23年度から5年間毎年2棟づつ整備,計10棟整備予定。賃貸期間は3年、1棟につき3世帯の利用を計画。家賃は月3万円。3年以内に定住する家を見つけてもらう。現在全ての住宅は入居しており、これまで1世帯が定住、1世帯が三つ葉生産者を目指して市外に移動。

③住宅取得等融資斡旋制度
平成23年度から空き家バンクに登録している空き家の購入または回収費用に充当する資金について、300万円を上限に、市が地元信用金庫から融資を斡旋。金利は信用金庫の長期プラムレートから0.5%減。対象は20才~50才未満の定住希望者。平成23年度1件(300万円)、24年度1件(300万円)の実績

④水源の里定住支援給付金
平成23年度から水源の里に市外から転入する20才から65才の家族を有する世帯に1世帯当たり5万円を6ヶ月を限度に給付する制度を始めた。3年間で12世帯、270万円の実績。

⑤空き家活用定住支援事業費助成金
平成26年度から、空き家を購入または賃貸したものが行う改修工事に要する経費に対する補助金を公布する制度を開始。

補助対象者
aあやべ定住サポート総合窓口に登録されており、定住する意思を持って本市へ転入した または転入しようとしている方
b空き家を購入した方または賃貸した方
c継続して3年以上し外に住所を有している方または転入して1年未満で、当該転入の際 に3年以上し外に住所を有していた方
d20才以上55才未満の方
e改修した空き家に3年以上、生活の本拠として居住する意思のある方
f空き家の所有者と2親等以内の親族でない方
g定住促進に関する空き家に係る他の補助金等の交付を受けていない方、または受けよう としていない方
h定住者または同居者が暴力団関係者でないこと

対象工事
a主要構造部、トイレ、風呂、台所等の生活するために必要な改修に擁する工事
b市内に事業所等がある事業者が施工する工事
c入居後1年以内または入居前に行われる工事

補助率
補助対象経費の3分の2以内、100万円以内。

3、定住促進の現状と課題
1)定住促進の現状
実績として117世帯272人となっている。この数字は日経新聞によると、佐久市、金沢市に次いで3番目となっている。人口減少に歯止めがかかる数字ではないが、取り組みの成果が出ているとは言える。
移住者の内訳は
10才以下54人(19.9%)11~20才8人(2.9%)21~30才26人(9.6%)
31~40才77人(28.3%)41~50才33人(12.1%)
51~60才31人(11.4%)61~70才36人(13.2%)71才以上7人(2.6%) 小学校前の子どもを持つ世帯の移住の移住があるが、小学校入学後は経るとみられる。また退職者と思われる世帯が4分の1ほどある。
移住者は近畿圏が主で、東京、岡山、北海道などからも来ている。

2)課題
綾部市では交流から定住へ、更に地域振興へと取り組みを進めるために平成23年度に定住促進部を創設し、定住促進課、観光交流課、水源の里・地域振興課を設置して,交流、定住、地域振興を一括して進めてきた。一定の成果が出ているものの、人口減少に歯止めがかる状況ではない。30代を主に子育て世代では田舎暮らしや自然豊かな環境で子育てするニーズはあるが、就労など経済的基盤が弱くハードルが高い。また、地域の慣習やルールになじめない等の問題もあり、定着しないケースもある。定住支援策を充実させてきたが、定住希望者登録数および空き家バンク登録数は大きな伸びが期待できない現状がある。この様な状況から、人口減少に歯止めをかけるには、空き家バンクによる定住促進を広域的に近隣の都市連携で進めると共に、市街化調整区域の見直し等土地利用の規制緩和と医・職・住・教育など住環境整備の必要性が挙げられている。近い将来神戸方面と京都市内方面からの高速道路が開通すると言うことで、自然環境と農業を生かした6次産業化を促進するなどで職を開拓し、定住化促進を期待している。

所見
今回の調査目的は過疎化が進む農村地域での取り組みを検証することであった。綾部市の取り組みは市・住民・事業者が一体となって取り組み成果を上げている。空き家の流動化には地域住民の主体的な取り組みが不可欠であり、売買や賃貸を円滑に進めるには宅建業者の協力が必要であること、定住支援などの制度設計や情報発信は行政の取り組にかかっている。綾部市における定住促進のハードルは移住者の職をどう確保するかが大きいと考えられる。福岡市においても早良区南部地区や西区西部地区の過疎化対策には、綾部市の空き家バンクの取り組みは有効であると考えられる。福岡市の場合は、大消費地に隣接する条件や通勤可能な位置であることから職の確保は可能であり、綾部市に比べて非常に優位である。福岡市において空き家バンクについて検討する価値は十分ある。また、住宅リフォーム助成制度と関連する定住支援を進めることで地域経済活性化の一助にもなると考えられる。