子どもの権利条例調査(志免町)

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子どもの権利条例調査(志免町)
子どもの権利条例調査(志免町)

目的
いじめや児童虐待の問題が依然深刻な状況にあり、福岡市では道徳教育に力を入れる施策を進めるとしている。いじめや児童虐待の問題は規範意識を植え付けることだけでは解決するとは考えられない。価値観は時代と共に変化するのであり、価値観の根底には基本的人権がなければならない。子どもの権利条例を制定することで、大人が子どもの意見表明に耳を傾け尊重し、子どもを独立した人格として扱うことで子どもの権利を子ども自ら理解し,人権意識を育み、いじめや虐待、差別を解消することを促進できると考える。子どもの権利条約が1994年に批准されてから20年を経たがいじめや児童虐待は遅々として解消に向かっているとは言えないが、子どもの権利条例を作り子どもを擁護する自治体は少ない。福岡市においても子どもの権利条例を制定し、子どもの擁護を促進させる必要があると考え調査した。

1、子どもの権利条例制定の経緯
1)志免町子どもの権利条例制定委員会設置まで

志免町では2000年に子育てかが新設され、2001年4月から電話と面談による相談窓口である子育てホットラインが開設された。年間120件程度の相談があり、その内容は「親子関係」や「育児ストレス」「不登校」が大半であった。同じ頃今日行くそうだ陰湿でも400件を超える相談があり、その大半が「不登校」であった。これらの子どもに係る問題の背景には子どもの生活そのものから生まれる申告で複合的な問題があると考えられていた。
ここのような情況の中2001年12月議会の一般質問で「子どもの権利条例設置について」一般質問があり、翌年1月の庁内係長会議で子育て課から子どもの権利条例設置に関するプロジェクトチームを提案。社会教育課、総務課、健康課、学校教育課から各1名、子育て課1名の計5名で「志免町子どもの権利条例プロジェクト会議」を発足させ、必要性について検討を始めた。
プロジェクト会議では町内での虐待の実態調査や教育相談員や有識者からの学習会を重ね、7回の会議の後2003年8月に町長へ志免町子どもの権利条例制定に向けて提言書を提出。プロジェクト会議は福祉かを加えて10名の構成による「庁舎内検討委員会」として残した。翌2004年に「志免町子どもの権利条例制定委員会」を設置して条例制定の準備を始めた。委員会の構成は、大学教授、弁護士、PTA代表、子育てサークル・子育て支援関係者、人権擁護委員、民生委員、幼稚園園長、保育園延長、小学校校長および教師、中学校校長および教師、一般公募町民による19名の構成。

2)志免町子どもの権利条例制定委員会での検討過程
委員会は2004年7月に第1回の委員会開催を初めに6回開催、および制定委員会と庁舎内検討委員会との合同会議を6開催し、プロジェクト会議の提言を基に条例案作成および制度設計を行った。委員会は2年をかけて条例案を策定した。
委員会では子どもの権利に関する意識調査として2004年9月に小学生、中学生、高校生、大人にアンケートを行い、小学4年生から6年生までの909名、中学生1年生~3年生までの700名、大人321名から回答を得た。高校生からの回答は少数で暖め分析できなかった。大人は「世の中が悪い」「親が悪い」「ゆとりがない」という声が多く、子どもは「話を聞いてくれない」という声が多かった。このことから、大人が子どもに真摯に向き合うこと、子どもの話に耳を傾けることが必要と判断され、条例の全および条文に盛り込まれた。
町民に子どもの権利について理解を深めるため、2005年1月に子どもの人権を考える後援会「子どもにやさしい街づくり」を実施。同年5月に子ども参加イベント「集まれ!10代」を10代の子どもに企画からかかわってもらい開催。そのだで「どのばしょになにがあればいい」かたたづねたところ、あそびばをもとめるこえがたすうあった。委員会では委員が中学校に訪問し中学生にヒアリングを行ったところ、ここでも「ほっと出来る場所」や「安心できる場所」の必要性がうかがえ、条例制定に伴い子どもの居場所「リリーフ」設置となった。委員会ではNPO子どもの権利条約研究所に入らし、虐待・いじめ・不登校・非行といった子どもの問題の救済システムを作るために調査を依頼。2005年10月~12月にかけて11才~17才の子ども755人、18才以上の大人1,033人、計1,788人を対象に調査が行われ、551人から回答を得た。これを基に、条例を理念だけではなく救済機関設置するとした。
委員会の議論では、子どもが生き生きと過ごすためには、安心して過ごせる、支援される、自分らしく入られる、参加する、意見が生かされるなどは実現されことが必要であるとし、条例の理念に表現。子どもの権利条例とする理由は、子どもを一人の人間として認め、接する姿勢を示し、権利は子どもが独立した人格であり、意見表明権や自分らしく生きること、ありのままの自分を表現することが当然のものであることを現すもので、わがままを許すことではないこと、権利に対する子どもの義務を求めるのではなく、子どもの生活環境を整えることは大人の責務であることを確認。調査検討の中身を条文化。
2008年に全会一致で条例案が可決し2009年4月1日施行。条例制定には女性議員5名の働きかけが大きいということであった。

2、子ども権利条例の組み立て
条例の構成は理念と救済機関を設置した総合的な条例。条例では理念に基づく、親、町、子ども関連施設、町民の責務を規定している。
町の施策として町広報誌およびパンフレット作成し町民、町職員、教員等への啓発、相談カードを小・中・高生に配布。11月20日を「志免町子どもの権利の日」に定め、その日に近い日曜日に子ども権利の学習と意見表明や参加の場として子どもも企画から参加する子どもフェスタを開催している。条例に基づき中学生から18才までを対象に子どもの居場所づくりとしてリリーフを設置、運営をNPO法人スペースde GUN2に委託。
また、2006年に庁内子どもの権利条例検討委員会を経営企画課と生涯学習課を加えて15名体制で子どもの権利推進委員会を設置して町としての推進体制を作っている。
条例に基づき救済機関として子どもの権利救済委員が3名が議会の承認を得て選任されている。独任制で、任期は3年、再任は妨げない。子どものに課する申し立てについて、調査、調整、勧告、是正養成の権限を有する。申し立てがなくても独自の判断で調査・勧告等が出来る。毎年活動報告が出されている。現在子どもの権利救済委員は大学教員、弁護士、臨床心理士の3名が就任。
子どもの権利調救済員の補助機関として子どもの権利相談室が設置されている。相談は教員退職者など3名が町長から委嘱を受け相談業務を行っている。相談内容によっては救済委員へ繋ぐ。相談室は毎週火木の午後、土の午前午後に2名がローテーションで常駐して相談を受け、月、水は啓発活動に取り組んでいる。
子ども権利条例推進状況を検証する機関として子どもの権利委員会が設置されている。委員は町長による委嘱で、任期は3年、再任は妨げない、定員は10名以内となっている。3年ごとに施策の推進状況を検証し報告書が出される。現在、大学教授、准教授、弁護士、民生児童員、子育てサークル関係者、PTA役員、子ども育成会会長、中学教諭、一般公募市民の9名。

3、政策の現状
担当者の説明では、2013年度は相談室への来室者数は延べ946人、内相談件数は延べ65件となっている。2013年の町民意識調査では条例を知っているまたはある程度知っていると答えた18才以上の大人は13,9%と認知度は低く子どもの権利条例についての理解が広がっていない。学校での取り組みにより子どもの権利フェスタの参加者は年々増えているが、近年伸び率は鈍化傾向にある。子どもの権利条例についての理解を深める活動をどう進めるかが大きな課題となっている。また、子どもの権利条例制定後職員の意識が変わり、各課、各関係機関との連携がとれるようになったと評価している。
志免町では、子どもの権利救済活動報告が毎年出されている。直近の2012年度報告書によると、相談者は中高生が多く、相談室来室の相談が35件、電話相談9件と来室による相談が9割となっている。相談内容の多くは子ども同士の問題が多く、対応として傾聴が多い。中学生のアンケートでは、子どもの権利条例を知っている児童は増えているがまだ33.3%と認知度は低い。子どもの権利相談室(キッズ)を知っている児童は36.4%。キッズを知っている児童の内、設置している場所であるシーメイトを知っている児童は66.2%、キッズの事業内容を知っている児童は約半数と、またキッズが配っている相談窓口カードをもっている児童は28.7%という結果である。また同じアンケートで悩みがあると答えた児童は9.3%、相談する相手がいないと答えた児童は6.7%、悩みがあるときキッズの相談しようと思うと答えた児童は23.2%であった。この数字を見ると、子どもの権利条例について子ども達の理解が進んでいない状況が分かる。学校現場での取り組みが必要と考えられる。
同子どもの権利救済報告書では、2010年以降救済申し立ては1件しかなく、子ども権利救済の申し立ては少ない状況である。このことは子どもの権利条例の認知が低いことが原因なのか、そもそも問題がないのか俄に判断できないが、救済委員や相談制度が必要ないことには関係がないと考える。
子どもの権利保障の状況は3年を1期とする子ども権利委員会で検証されている。直近の第2期(2010年10月~2013年9月)子どもの権利委員会の報告によると、①子ども自身の子どもの権利の理解の促進について、子どものアンケートによると2/3の子どもが子どもの権利条例を知らないと答えており、家庭、地域、学校と子どものあらゆる暮らしの場で権利学習の知識とスキルを学べる仕組みづくりが必要としている。そのために、子どもが利用しやすい場所に相談・居場所づくりを進める、学習の機会を作る、家庭・学校・地域などにおいて日常的に子どもが参加すすことで実践的に学べる環境をつくることを適している。②次に大人に対する子どもの権利・子どもの権利条例の普及・促進について、一層の大人のの子どもの権利の理解の普及啓蒙の促進が必要とし、子どもが参加し、自主的に活動できる地域活動の促進が櫃としている。③子どもの権利および子どもの権利条例に関する町全体の連携について、学校や子ども関連施設では取り組みがなされているものの、学校、相談機関などの各機関や各部署同士の連携がスムーズに出来ているとはいいがたいとしている。各部署と子どもの権利委員かとの定期的な意見交換の場をつくることや街の子ども関連施策に子どもが参加する仕組みを作る、将来的には子どもの権利に関する総合窓口としての子どもの権利コンシェルジュの設置を適している。
第2期子どもの権利委員会は次期委員会への課題として、①子ども自身のことを子どもに聞くと言うことについてはアンケートや座談会で聞くことが出来たが、子ども施設については運営する支援者の声は聞けたが利用する子ども声を聞くことが出来なかったとしている。今後子ども施設を利用する子どもの声や問題を抱えた子ども・若者の声、支援が必要としている子どもの声をどのように聞くか検討が必要としている。②次に、本委員会の役割およびその検証の位置づけの確認として、検証の過程で町の政策策定における本報告書の位置づけが曖昧なこと、報告を受けて町からのフィードバックがないとしている。今後、報告内容が町全体の取り組み位置づけけられるようにする仕組みづくりを提起している。③学校における権利保障とその憲章について、子どもの権利アンケートと小学校のヒアリングにおいて学校での子ども子どもの意見表明や参加の仕組みなどの状況の一部を明に出来たとしている。子ども自身が権利を学ぶために学校が重要な役割を担っており、子どもの権利条例は権利学習の重要なルーツなる。学校と子どもの権利委員会との連携の仕組みを作る必要があるとしている。

所見
児童虐待、いじめや不登校は依然大きな課題であり、対策が求められている。子どもが自ら権利を自覚し、他者の人格を認めることでいじめや差別の解消に繋がる。また、子どもの意見表明とそれを大人が尊重することで、子どもの成長・発達を促すことを期し、子どもの最善の利益を保障する責務が大人にある。子どもの問題は大人の問題であり、大人が子どもの権利を理解することが必要である。子ども権利条例を作り子どもが安心して暮らせる環境作りをすすめるには、大人が子どもの権利について理解しければ実現しない。
志免町の子どもの権利条例および条例に基づく施策の実施状況を見ると、理念だけでなく救済機関の設置および所売れ施行状況の検証機関として子どもの権利委員会を設置するなど制度的にはよく出来ているが、現状ではまだ町民に理解が広がっていない。しかし、子どもの権利委員会で検証を行い、関係機関との連携を促し志免町の政策に反映させる取り組みがなされていることは重要なことと考える。子どもの権利条例は実態が見えにくいが、子どもの権利擁護のセーフティネットとしての役割はこれからますます必要と考えられる。志免町子どもの権利委員会が指摘する、子どもが利用しやすい相談・居場所を作り等の環境整備と、家庭・学校・地域の活動で子どもが主体的に参加する実践的に学ぶ場を作ること、また、子ども支援者、学校。子ども施設、行政の連携および諸関係機関と子どもの権利委員会との連携が重要であり、子どもが参画する様々な事業を行政の事業計画に組み入れることが必要であることを痛感した。
子どもの権利条例の理解が広がらない背景の一つとして、説明員の話では志免町が福岡市のベッドタウンで転入転出が多く、地域とのつながりが薄い住民が比較的多いという地域的特性が考えられるとしている。また、今日の社会状況を考えると、大人自身に余裕がないことも大きいことも考えられる。これらは志免町特有のものではなく福岡市においても同様な状況と言える。だからこそ、理念としての条例ではなく救済機関および検証機関を設置し、市民および関係機関が子どもの権利について理解を深め連携して取り組むことが重要と言える。