他都市調査その1

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25日(木)浜松市

時 間 14:00~15:30

説明員 上下水道部総務課山崎昭経営企画担当課長、上下水道部総務課内山輝義官民連携グループ係員

目 的 自治体において事業の効率化・経費削減を進めるために官民連携が取り組まれている。民間活用は指定管理者制度、PFIが取り組まれているが、さらにPFI法を改正して運営権を譲渡するコンセッションを国は推進している。コンセッションはすでに空港で始まっているが、下水道事業でのコンセッションは浜松市が初めてであり、下水道事業におけるコンセッション導入状況について調査した。

1、コンセッション導入の経緯

浜松市は2005年に12市町が合併して政令市となった。人口は2017年4月1日の住民台帳では806,407人となっている。政令市に移行したことから浜松市東部の県営西遠流域下水道事業が浜松市に移管されることとなり、合併特例による10年間の猶予期間を活用して事業のあり方について検討した。市長として「民ができることは民で」という考えがあり、コンセッションの検討が始まった。

2011年に国の支援で下水道事業においてコンセッション導入の可能性について検討を始め、2014年にコンセッション導入計画について決定、同年6月から7月にかけて1ヶ月間のパブリックコメントを実施した。2015年4月に実施方針素案を公表、2016年2月に下水道条例を改正、西遠流域下水道を事業選定した。同年5月に事業者募集要項等を公表、同年8月に入札を受け付け、2017年3月に優先交渉権者を選定、同年10月に基本協定を締結した。

応募者はヴェオリア(フランス資本・代表企業)・JFEエンジニアリング・オリックス・東急道路・須山建設グループ(浜松市地場ゼネコン)のグループと、日立製作所(代表企業)・ウォーターエージェンシーのグループであった。日立・ウォーターエージェンシーグループは現在西遠流域下水道の管理を静岡県から受託しており、入札では有利とみられていたが、結果はヴァオリアグループが落札した。最も大きな要因はヴァオリアグループが運営権対価として25億円を提示したことによる。受託事業者としては、ノウハウをつけて海外に事業を広げることを期待する一方で、提案事業が契約通りに実施されるのか、今後の課題としてある。

2、事業の概要

1)対象事業

浜松市の下水道事業は11の処理区域があり、その内浜松市の下水処理量の5割を占める最も大きい西遠流域下水道を今回の事業対象としている。西遠流域下水道には1カ所の処理場と2カ所のポンプ場があり、➀コンセッションの対象業務は汚水処理場における汚水処理業務と維持管理、➁2ポンプ場の運転と維持管理、➂流域下水道の管路と汚水処理場および2ポンプ場の施設建造物の土木・建築以外の電気設備や機械設備などの改修となっている。なお、電気設備および機械設備等の改修費用の9割は市の負担(従来から国庫補助がある)としている。

2)事業スキーム

コンセッション運営事業者は浜松市から施設の運営権を得て事業を行う。施設は浜松市が所有し、施設利用料を利用者が運営事業者に支払う。運営権譲渡は2018年から20年間、運営権対価は25億円。運営権対価のうち1/4を初年度に浜松市に支払い、残りは分割払いとなる。具体的には西遠流域下水道使用者は汚水処理費用および汚水処理場と2ポンプ場施設の維持管理費用等を運営事業者に、下水管路および施設の土木・建築等改築費等を使用料として浜松市に払う。利用者の支払い方法は他処理地区と同じく水道料金と併せて徴収され、徴収費用は運営事業者および上下水道局それぞれが負担する。

下水道使用料金は全市同じに設定しており、コンセッション運営事業者は下水道使用料金の23.8%が施設利用料として収入となる。運営事業者には利用料金の設定はできない仕組みになっている。但し、運営事業者は5年に1回定期的に利用料等および料金設定割合に関する提案ができることとなっている。また、直近の3年間に資材や人件費の高騰など事業環境に著しい変化が生じた場合は、臨時に利用料金設定割合の改定協議を行うことができるとしている。目安としては日銀の鉱工業物価指数が3年間で12%を超えた場合としており、上方に超えれば引き上げ、下方に超えれば引き下げとなる。

浜松市は運営事業者と業務に関する契約を行い、浜松市は運営事業者の業務についてモニタリングを行う。同時に事業者自身のモニタリングと第三者機関(日本下水道事業団)によるモニタリングが行われる。モニタリング結果による是正措置について紛争が起こった場合の紛争調整機関として西遠協議会が設置されている。西遠協議会の構成は市から1名、事業者から1名、双方で合意された3名の計5名で構成されている。

3、コンセッション導入のメリットと課題

市としての主なメリットとして、職員の削減や高齢化による技術職減少の対応ができる、運営事業者による経営効率化で老朽施設の更新や耐震化が効率的にできるとしている。西遠流域下水道が県より移管されたことで新たな職員配置が迫られていたが、コンセッション導入によって市職員の増加はモニタリングの職員3名で済んだとしている。浜松市によると20年間の事業期間における運営権対価は25億円、事業期間における削減額は86億5600万円、事業総額の縮減率V/Mは14.4%としている。

市の主な課題としてはモニタリングのノウハウの取得が挙げられている。市は流域下水道処理に関するノウハウがなかったが、2016年、2017年の2年間の引き継ぎ期間があり、研修ができたが技術の継承などの課題はある。また、議会や市民などの理解が挙げられている。

事業者の主なメリットとしては公共部門への事業の拡大、上下水道の経営ノウハウの取得と新たな事業展開が挙げられている。課題としては公営事業ではなかった法人税の負担を挙げている。市民にとってのメリットとしては料金値上げが抑制できるとしている。

4、コンセッション導入についての議会および市民の意見

議会では水道事業ではなく下水処理事業ということで、1会派以外からの反対の声はなかった。市民からは水道事業が外資(ヴェオリアがフランス資本)に売られるのではないかという声が出されたが、下水道事業ということで納得された。

調査の所見

今回の調査で下水道事業におけるコンセッションは、管路や建造物の維持管理を含めた全体を民間でやることができないことが理解された。民間事業者は収益性がなければ事業はしない。しかし、管路や設備の維持管理・改築は老朽化が進み維持管理経費が増える一方人口減少が進む中では、事業の収益を上げる見通しが持てない。同時にこのような状況ではなおさら下水道料金を事業者にゆだねることを市民に合意を求めることは不可能である。このような状況を勘案して民間の運営に任せる構造として、民間事業として負担が軽い下水処理業に関連する部分のみが事業対象にされたと考えられる。設定した使用料金割合内で事業者はIT化による人員削減や電気・機械設備等の購入コストを下げることは可能と考えられるが、雇用者の低賃金化削減がなされるとすれば問題である。

また、技術の継承がなければモニタリング能力や事業終了後の再委託などにおけるチェック機能が失われることが危惧される。浜松市は西遠流域下水道以外に処理場をもっており、当面は問題がないと思われるが、今後の対応は検討する必要がある。

今回浜松市の下水処理に係るコンセッションを見ると、通常の指定管理者との違いが明確にならない。20年間という長期契約ということで事業者にとっては安定した事業と考えられるが、他方中長期的に人口減少・高齢化による事業採算性悪化が考えられ、事業者を撤退させないために結果的には市が負担軽減のための措置を執ることになるのではないかと危惧される。財政支出を伴うのであれば、当初から直営でやった方が市民への説得力はある。