安全性のみ強調、被害の実態を隠す 「放射線副読本」の回収を! -6月議会一般質問より-

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放射線副読本が全国の小中学生に配布されています。内容を見ると極めて問題が多く、滋賀県野洲市教育委員会は副読本を回収しています。

副読本は2011年10月に初版本、2014年3月に改訂、2018年9月第3改訂版が出されています。基本的には低レベルの被ばくは問題ないと安全性を強調し、原発事故は収束しているかのよう誤認に導くものです。その背景には、安倍首相がオリンピック誘致の時に「アンダーコントロール」とウソをつき、2020年オリンピック・パラリンピック開催時までに原発事故の跡形を消し去ろうとしているものです。復興庁は風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略を2017年12月に立て、それをベースに2018年10月に放射線副読本改訂をしています。

福岡市の対応については、
児童生徒に個別に配布するか、各学級に必要数を置き副読本として活用するか、各学校の実態に応じて判断するように通知している
・児童生徒に個別に配布する場合は、内容等の説明を加えて配布するように通知している
となっています。

 

以下私の6月議会の一般質問の趣旨です。教育委員会は全て「国が責任もって作ったもの」と繰り返し回答しました。

○自然の放射線も人工放射線も同じ期間に同じ量を受けるものであれば人体への影響に違いがないと記載されていますが、この表現は極めて巧妙に放射線被害を誤認させるものである。
自然放射線も被曝量に応じた健康被害があり、決して害がないわけではない。人工放射線を被ばくすることは、自然放射線の被ばく量の上に更に被ばくすることとなり、健康被害のリスクは高まる。医療用人工放射線も被ばくすれば健康被害を及ぼし、放射線被ばくは有害であることを学ばせるべき。

○「どのような影響が現れるかは、外部被ばく、内部被ばくといった被ばくの態様や放射線の種類の違い等によって異なります」としながら、放射線量が同じであれば外部被ばくも内部被ばくも影響は同等と記載されている。これは外部被曝と内部被曝はあたかも同じと誤認させるものであり問題である。
外部被ばくは体外からの放射線被曝であり、内部被ばくは食品に含まれる放射性物質を摂取するか、空気中の放射性物質または放射性物質を含む粒子を体内に吸い込み、体内の臓器や骨などに取り込まれ、放射線を細胞内で照射されるので、被ばくの影響は外部被ばくに比べて非常に大きい。この様に外部被ばくと内部被ばくは本質的に異なる。

○100ミリシーベルトから200ミリシーベルトの放射線を受けたときのガンの発生率は1日110gしか野菜を食べなかったときや高塩分食品を食べ続けたときのリスクと同程度ですと記載されていますが、これは被ばくしても問題ないと誤認させ問題である。
国際放射線防護委員会(ICRP)の一般公衆の年間被曝量は1ミリシーベルト以下を勧告している。医療従事者や原発従事者の年間被曝量は50ミリシーベルト以下、3年間で100ミリシーベルト以下。年間5ミリシーベルトの被ばくした原発労働者が労災認定を受けている。副読本の記載は年間20ミリシーベルト以下の除染した地域に政府が半強制的に帰還させていることを正当化するもので問題である。政府の措置はまさに人体実験である。

○100ミリシーベルト以下でも発がんのリスクがあるという数多くの疫学調査がありますが、100ミリシーベルト以下の影響についての記載はないことは、放射線の正しい理解を妨げるのではないか。

○福島県では小児甲状腺ガン患者が2018年3月時点で233人とされていますが、副読本では健康影響調査について健康被害がないと記載されており、虚偽の記載である。

○国際放射線防護委員会(ICRP)も100ミリシーベルト以下の低線被ばくでも「ガンまたは遺伝性影響は、関係する臓器および組織の被曝量増加に比例して増加すると仮定するのが科学的に妥当である」と言っている。また、副読本では「遺伝的な影響はない」と記載していますが、ICRPは遺伝性影響を見積もっており、「遺伝性影響は無い」と断定することは出来ない。安全神話をすり込むものである。

○福島第一原子力発電所事故とその後の復興の様子の記載では事故で放出された放射性物質の量はチェルノブイリ原発事故で排出された量の7分の1とし、原発による健康被害もなかったかのような記載がされているが、これはあたかも原発事故が軽微であるかのような誤解を与える記載である。

○包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)の観測データを基にしたストールらの報告ではチェルノブイリ原発事故とほぼ同等量の放射性物質が放出されたとしている。アメリカでも福島原発事故の放射能は観測されており、放射能汚染は世界に広がっている。チェルノブイリ原発事故後25年間の調査で健康被害はガンだけでなく、免疫系、神経系、心臓疾患など健康被害が報告されている。

○副読本は食品安全に関する基準について、世界一厳しい基準として表を記載していますが、表に記載しているEU、アメリカ、コーディックスの数値は緊急時の数値であり、日本の数値は平常時の数値です。明らかに誤った記載である。

○食品の放射能の基準は福島原発事故によって日本が放射能汚染社会になったために、現在の基準が作られたものです。現在の基準は事故前の基準と比べて、水は25万分倍、コメは8300分倍です。いまある基準は汚染された社会での我慢値であることを教えるべきである。

○事故による避難者の数や避難指示区域の解除などは説明されているが、原発事故の現状である汚染水処理問題や廃炉が進んでいない状況、現在も非常事態宣言中であることなどの説明がない。

 

原発事故が未だ終わっていない事実をキチン伝えるべきです。あたかも原発事故は何事もなく収束しているかのような記述は、原発の安全神話を子どもたちにすり込むもので犯罪的と考えます。

この副読本は放射線が安全であるかのように誤認するよう誘導しており、「科学的な知識」を理解させることになっていません。放射線は本質的に有害であり、自然放射線も人工放射線も被曝量は極力減らすことを教えることが必要です。

原発事故で突然全てを自宅に置いたまま避難が強いられ、突然仕事を失い、家族が分断され、長期に亘り故郷へ帰れない被災者の思いが全く記載されていません。この記載を見て原発被害者がどんな思いか想像すべきです。「いじめは決して許さない」ことを学ぶことが出来ると市は答弁していますが、放射線の危険性を理解せず、原発事故の実相を知らなくて、いじめが無くなるとは考えられません。

また原発事故は未だ収束しておらず、原発からは放射性物質を排出し続けており、放射性廃棄物処理の見通しも立っていないことをきちんと教えるべきです。副読本に流れているものは、原発の安全神話を刷り込み、事故があたかも収束しているかのような誤認を誘導しており、非科学的かつ虚偽に満ち、原発事故被害者の気持ちを踏みにじるものです。子どもの教育に責任を持つ教育委員会は自ら調査し判断するべきです。この副読本は子どものためにはなりません。

福岡市は野洲市のように副読本を回収することを強く求めました。