他都市視察報告

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2022年8月9日(火)

埼玉県戸田市

視察項目 戸田市健全な教育環境確保のための住宅開発抑制に関する指導要綱について

説明員 まちづくり推進課 熊木智洋課長、箱崎信政主幹、袋友則副主幹

    教育総務課 金澤 哲課長 今泉良太主幹、桑原武士副主幹

1、要綱制定に至る経緯

 戸田市の人口は14万1千人。面積18万㎢。人口は社会的流入で増えている。元々は工場が多かったが、昭和60年に埼京線が敷設され、東京のベッドタウンとなった。市内には3駅がある。産業構造の変化で工場が閉鎖されてきたことや区画整理事業も行われ、マンション建設が増えてきた。児童数の急増で教育環境が悪化する恐れが出てきたことから、大型スーパーが閉店することが分かり、大規模なマンション建設が予想されたことから、半年ほどで急いで要綱をつくり、令和元年7月1日施行した。当初はうまく指導ができるか不安な声があったが、現在は特に問題はない。

2、要綱の内容

 戸田市内の小中学校において、教室が不足することが懸念されることから、健全な教育環境を確保するために、一定規模の住宅開発について抑制等を求める。具体的には1戸あたりの床面積が40平米を超える住宅の総数が40戸以上の住宅開発を対象とする。対象となる区域は、戸田市教育委員会が児童・生徒数の将来推計を行い、通学区域を受入困難な状況に応じて、➀受入困難地区、②監視地区、③循環し地区、に分けて指定をしている。指定通学区域において開発事業者は、土地取引の前日まで、または確認申請を行う3ヶ月前までに教育委員会と事前協議を行い、まちづくり推進課に届け出を提出することを求めています。

 教育委員会と開発事業者の事前協議において、通学区域における児童・生徒の受入可能な上限を超えないこと、住宅開発の延期や計画の変更の協力を求める。協力を求める必要がある場合は、市は協力内容を住宅開発事業者に通知し、協力を求めるとしている。市が協力を求めた自公について事業者が応じない場合は、事業者に対して指導できるとしている。

 受入困難地区は、児童・生徒の増加に対して給食の提供、仮設校舎の設置による対応等総合的な理由で受入が明らかに困難な通学区域で、受入の上限が100戸としている。

監視地区は、児童・生徒の増加に対して教室の不足が予測され、開発の規模によっては給食の提供、仮設校舎の設置による対応が困難と見込まれ、開発状況の監視と一定規模の開発の極性が必要とする通学区域、受入の上限は200戸としている。

準監視地区は、現時点で教室不足は予測されていないが大規模な住宅開発によって給食の提供、仮設校舎の設置による対応が困難と見込まれ、大規模な住宅開発を抑制する必要がある通学区域で、受入の上限を300戸としている。

小学校通学地区のみを対象とし、中学校は小学校からの繰り上がりなので中学校区は対象としていない。受入困難地区2地区、監視地区5地区、準監視地区6地区となっている。受入困難地区等は市のホームページに公開され、まちづくり推進課に手続きにくる不動産関係者などにチラシを配布し周知を図っている。

3、要綱に基づく指導について

 教育委員会が児童・生徒の増加についての将来推計を行い、事前協議において事業者統計入れ戸数について事前協議をしている。事前協議を経てまちづくり推進課に届け出を行い、協力要請が必要な場合は市が協力要請の通知を行う。指示業者が市の協力要請に応じない場合は行政指導を行うとしている。行政指導はあくまでも行政指導なので罰則はない。しかし、現時点では協力要請の通知を発出した事案はない。

4、現状及び成果

 これまでの指定通学区域における開発申請は令和元年6件、令和2年1件、令和3年2件、令和4年1件となっている。この間協力要請の通知は出されていない。また、行政指導する事案も出ていない。事前協議の段階事業者が計画変更等がなされていると思われる。計画変更が確認できているものは、1件目として大型スーパーが閉店し、3万3千平米の跡地にマンション建設が予定されていたが、ホームセンターとなっている事案、2件目として民間の研究所が廃止され、2万8千平米の跡地にマンション県建設が予定されていたが物流センターになっている事案がある。この2件の事案は敷地面積から戸田市最大のマンション932戸程度のマンション建設は可能であることから、事前協議で計画変更になった。

 戸田市は東京のベッドタウンとして住宅需要が見込まれている。市としてはできるだけ受入可能な対策をとっているが、事業者にも協力を求めている。開発事業者が比較的大手の事業者が多いことでコンプライアンスも働いていると考えられること、また事前通学困難な状況が公表されていることで、開発事業者は購入者に重要説明事項としてこどもの通学する学校の教育環境の問題や通学区域ついて説明する必要があることから開発事業者が自主的に判断しているとも考えられる。

5、課題

 現時点では悪質な事業者が出ていないことから特に問題はない。しかし、行政指導が必要となった事案が出た場合は行政指導の限界があると思われる。

所見

 戸田市において住宅開発による児童・生徒数の増加による教育環境の悪化が予測されることから、規制する通学地区を指定し公表することで、住宅開発事業者の自主的な開発要請が働いているといえる。戸田市としてもできるだけ住宅開発を受け入れる努力をしていることを事前協議で説明し、事業者に協力を依頼することで住宅開発事業者の理解も得られていると思われる。福岡市においても、児童・生徒数の将来推計を基に規制区域を指定し、事業者に協力を求めることは可能と考えられる。計画変更や開発時の調整等、開発事業者と市との協議をすることで、健全な子どもの教育環境を確保し、将来の無駄な投資を要請することができると思われる。