1、神戸市
日時 2019年8月28日13:00~14:00
説明者:建築住宅局建築指導部山田章子部長、建築指導部建築安全課福岡誉顕指導係長 都市局計画部都市計画課山田大輔課長、吉川正隆係長
調査目的:三宮駅周辺におけるタワーマンションの建築規制について
1)検討の経緯
都心部は商業、業務、行政、文化、観光など多様な都市機能を高度に集積させるために、市内の他のエリアに比べて容積率を高く設定している。しかし、近年都市機能の充実や交通の利便性の高さなどから高容積率を活用した大規模マンション(タワーマンション)が多く建設され、震災以前に比べ人口増加(平成2年比で1.6倍)している。その為、小学校や保育園などの子育て関連施設の不足、災害時の避難場所や備蓄のさらなる確保などの課題が生じてきており、他方都心部の活力と賑わいを創出する商業・業務関連の立地が阻害される懸念がある。都心部における都市機能とバランスがとれた都心居住を誘導する必要があるとして、平成27年度から検討を始めた。将来ビジョン「神戸の都心の未来の姿」を平成27年9月に策定、平成28年7月に「都心の将来ビジョンの実現に向けた土地利用の誘導に関する基本的な考え方」を公表、有識者会議を経て平成31年1月に特別用途地区の都市計画案改正案、住環境条例改正案及び総合設計制度許可取り扱い要領改正案を公表し、平成31年1月に都市計画決定、令和元年7月に「神戸市民の住居等をまもりそだてる条例」(住環境条例)を改正し、三宮駅周辺を特別用途地区に指定し、令和2年7月1日施行の予定となっている。
特別用途地区は都市計画において都心機能高度集積地区と都心機能活性化地区を指定し、多様な都市機能と住居機能のバランスがとれた街を目指す。都市機能高度集積地区では、総合設計制度要領を改正し民間事業を誘導。都心機能活性化地区では、「神戸市民の住居等をまもりそだてる条例」を一部改正して住宅建設を抑制する。
2)建築規制の内容と将来構想
➀規制内容
三宮駅周辺を特別用途地区(都心部機能誘導地区)とし、都心部高度集積地区と都心部機能活性化地区を指定。都心部高度集積地区では原則住宅建設は禁止、ただし既存住宅については建て替えは1回のみ認め400%とする。都心部機能活性化地区では敷地面積1000㎡以上の住宅建設を対象とし、新たな建築物の住宅部分の容積率の上限を400%とし、既存住宅については1回目の建て替えは現状と同じ扱いとし、2回目の建て替えは住宅部分の容積率は400%に規制される。いずれも住宅建設に関して総合設計制度は適用しない。
※総合設計制度とは公共空間や公共施設を伴う建築物に容積率の緩和がなされる制度。
➁将来ビジョン
住宅建築物においては共用部分などは床面積に算入されないために業務用建築物よりも大きな建物が建てられる。都市景観形成や都市機能集積を誘導するためには住宅の容積率の抑制をする必要があるとしている。
JR三宮駅周辺には6の駅があり、「えき~まち空間」として、人と公共交通優先の公共空間の再整備や景観形成、多様な都市機能を集積させる計画。都心機能高度集積地区に指定し、商業,
業務などの都市機能に特化した土地利用をすすめ、官民連携で神戸市の玄関口にふさわしい高質の空間づくりを目指すとしている。
3)立地適正化計画との関係
神戸市は人口流出しており、都心部での人口抑制することに対する疑問の声も出されている。神戸市は都心部に人口集中させるのではなく、交通ネットワークを活かし、拠点駅周辺での人口集積を進めている。立地適正化計画ではないが、同様な考えに基づく総合的な計画を別途立てている。
4)地権者や事業者、議会や市民の意見
地権者や事業者からは、神戸市は人口が減少しているのに中心部での住宅建設を抑制するのは問題ではないか、資産価値が下がるなどの意見があった。議会では住宅規制はもっと徹底すべきという意見があったが、特に反対の意見はなかった。
所見
人口減少が既に始まっており、日本経済は今後以前のように成長し続けるとは考えられない。いま全国的に問題となっているのは、中心市街地での再開発が都市の多様な機能集積がうまくいかず、住宅開発に転嫁していることにある。商業施設を作りテナントを誘致するよりも住宅にして処分した方が手っ取り早く収益を上げることができることにある。タワーマンションは所有者が多い上に投資目的のものも多いといわれ、補修・建て替えなど将来に大きな課題を抱え、都市のスラム化・スポンジ化が起こると指摘されている。今回の神戸市の措置は急激な人口増による行政需要が対応できなくなっている現状の対策と共に、中心市街地におけるタワーマンションが抱える将来の課題、都市の景観や都市の多様な機能の集積による賑わい創出を誘導する政策として評価できる。人口減少社会を迎えた今日、都市全体の在り方としては、交通ネットワーク形成による立地適正化計画と住宅戸数の規制による誘導が必要と考える。
2、高岡市
日時:2019年8月29日10:00~11:00
説明員:市長政策部総合交通課今方順哉副課長、原花絵主事
調査目的:交通不便地域・空白地域での交通施策について
1)高岡市の生活交通についての取り組み経緯
高岡市は富山県西部に位置し、人口17万人。東海北陸自動車道と能越自動車道が南北に走っており、平成27年3月に北陸新幹線が開通した。市内の鉄軌道は南北にJR城端線・JR氷見線、東西にあいの風富山鉄道線(旧JR北陸本線)と北陸新幹線が並行している。中心部のあいの風富山鉄道高岡駅から市役所方面へ高岡市中心部を路面電車の万葉線がある。市内には鉄軌道の駅が29あり、バス路線も私鉄と公営バス(旧福岡町営バス)がある。中心部である高岡駅・新高岡駅(北陸新幹線)を中心に、周辺部市街地を交通ネットワークでつなぐ。新幹線はまだ金沢までしか開通していないこともあり新高岡駅利用者は多くなく、万葉鉄道の新高岡駅までの延伸や高岡駅・新高岡駅間のシャトルバスについてはまだ実現できていない。新幹線開通後の交通利用者の状況は、鉄軌道利用者は増えているがバス利用者は減っている。
基幹交通を補完する交通手段として、コミュニティバスおよび交通不便地区・空白地区でのデマンド・バス・デマンドタクシーや地域バスの取り組みが検討・実施されてきた。コミュニティバスは平成13年から実施していたが検証の結果平成29年に廃止、デマンドタクシー(地域タクシー)は1地区で平成28年から実施、地域バスは1地区で平成21年から実施されている。
その他交通支援として、高齢者や障がい者に対する運賃割引制度がある。障がい者には万葉鉄道及びバスは50%割引、タクシーは10%割引。65才以上の高齢者には、路線バスは50%割引、万葉鉄道は回数券で13枚分を10枚の価格で販売。買い物支援としてインターネット注文による宅配、社会福祉協議会の依頼による移動販売がある。
2)コミュニティバスの事業内容及びその評価と課題
➀廃止までの経緯
コミュニティバス「こみち」は平成11年策定の高岡市地域交通ビジョンの提言を受け検討、平成12年11月試行運行、平成13年10月オレンジルート運行開始、平成18年3月ブルールートを運行開始した。循環型の運行、一律100円の運賃であった。当初の利用目標は1台当たり10人以上を目標としていた。ブルールートは当初は14人を超え平成20年まで10人以上を維持できていたが、その後減少し8人まで下がっていった。オレンジルートは平成18年の運行開始当初8人を切っており、一時期わずかに8人を超える時期はあったが増えなかった。平成19年に運賃の見直し(100円から200円へ)とブルールートのルート改正及びダイヤ改正を行った。しかし、その後も利用が減り続け、平成20年には利用が増えない場合は運行廃止を地元に案内したが、その後継続。平成21年にはブルールートは循環型から双方向循環型に変更。その後もルートの変更とダイヤ改正をしたが利用は減り続けた。平成29年に運行しているバスが老朽化し更新を検討する時期になったことを契機に、事業全体を検証し廃止を決めた。更新費用は2000万円、6千万円の経費に対し運賃収入は1500万円であった。
➁廃止に至った理由
利用者が伸びなかった理由は、①利用者は病院や崇雄丘駅など特定の施設利用するものが多く、循環ルートでは時間がかかることから利用が減っていったこと、②循環ルートの一部が既存の路線バスと重なること、にあった。利用者のニーズに運行実態が合わなかったことにある。
3)交通不便地域・空白地位の取り組みについて
➀地域タクシー(我が町タクシー)
自治会がタクシー事業者と契約を交わし、タクシー会社がタクシーを運行する。平成28年度から泉ヶ丘自治会で実施。実施箇所は現在1箇所。
○泉ヶ丘自治会と高岡交通(株)との契約によるチャーター運行
○運行は7時から19時まで毎時1本、一日13便。予約があるときのみ運行。
○ルートは厚生連病院経由高岡駅行きと済生会病院経由新高岡駅行きの2ルート。
○乗車は自治会が指定した場所で、降車は厚生連病院と高岡駅および済生会病院と新高岡駅だけ。
○利用者は自治会に登録、利用者は前日に利用便を予約。
○運賃はタクシーメーター料金。その内自治会から1回当たり350円補助があり、その残額を利用者同士で負担。
○市の補助は自治会へ1便当たり100円(事業開始年度に限り200円)、上限は10万円(事業開始年度に限り20万円)。
○現在1日2、3便の利用(H28、216便、H29、370便、H30、192便)
○課題として利用者が特定の人になる傾向があり、自治会としての負担に疑義を持つ人が出てきている。
➁地域バス(ぐるっとおぜ地区バス)
地域住民でNPOを設立し、NPOがバスを運行。バスは市が貸与(10人乗り自家用車)、人件費、ガソリン代等経費、保険料などはNPOが負担。市の補助は、①(運行経費-運賃収入)、②運行経費×4/5、③300万円(補助金の上限額)のいずれかの最も少ない額となっている。現在小勢地区1箇所で実施。
○NPO法人は小勢地区活性化協議会(小勢地区自治振興会関係)
○運転手は地区住人13名が登録、講習を受けて警察の許可を得ている。(実態としては常勤雇用者は一人になっている)
○運行ルートは3路線、バス停は指定している。西高岡駅行き、高岡駅行き、戸出・福岡・立野循環の3コース。
○運行日は平日とイベント時。平日運行便数は1日8便(うち夕方2便は予約、予約がなければ運行しない)、運行時刻は決められている。
イベント時は予約制。
○バス停は指定、表示されている。
○運賃は無料。自治会の全世帯(約250世帯、約1千人)が年間3千円の負担。H30年は地域負担751,600円、市補助額300万円。
4)公共交通不便地区・空白地区
○交通不便地区
一定の人口集積があり(20人/㏊以上)、かつ一定の利便性がある(1時間当たり1本程度の運行頻度)鉄道駅・電停・バス停県域(300m以内)に入っていない区域
○交通空白地
人口密度が20人/㏊未満の地区であり、かつ鉄道駅・電停・バス停県域に入っていない地域
所見
今日、高齢化による高齢者の増加と、高齢者ドライバーの事故多発による免許証返納が大きな課題となっている。また、高齢者・障がい者の移動手段の確保は喫緊の課題である。福岡市においても交通不便地・交通空白地対策は課題であり、条例を作り対策が取られている。今回調査した高岡市のオンデマンドタクシーおよび地域バスの取り組みは福岡市においても参考になる。福岡市でも地域バスに似たシステムとして香住ヶ丘の買い物バスの運行、内野のタクシーによるオンデマンドバスが実施されている。高岡市の事例や他都市の事例を見ると、制度設計がうまく出来ればもう一歩進めてドアtoドアのシステム構築が可能と考えられる。