移動の権利を確保するために!橋本地区の実験と北九州市やまさか乗り合いタクシー(光タクシーの取り組み)

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橋本地区ミニバス社会実験
壱岐南自治協議会に聞く。
日時 平成28年1月29日(金)

1、取り組みの経緯
自治協会長が20年前から高齢化社会が訪れ、自動車の運転ができなくなる高齢者が増えることから移動の手段について検討することを提起してきた。現在壱岐南地区の高齢化率は2015年度で33.8%であり、13自治会の内高齢化率が50%を超える自治会は1自治会、49%の自治会は2自治会ある。壱岐南校区は戸建てが90%で人口の移動が少なく、人口はほぼ1万人で推移している。昭和50年代に建てられた住宅が多く、高齢化が着実に進んでおいる。野方2丁目~5丁目の丘陵地区は橋本駅と最も高い地域との高低差は80メートルあり、バス路線からも遠い。この地域は運転ができなくなると移動が困難となることを心配する住民が多い。
壱岐校区、壱岐南校区では「ピクニックシティのまちづくり」を基本方針とする「街づくり協議会」が発足したときに、コミュニティバス部会を設置し、高齢化が進む野方2丁目3~5丁目の丘陵地および壱岐団地の交通弱者を守るために、10年来模索してきた「地域密着バス運行」を実現させるための検討を行い、社会実験を行うこととなった。「街づくり協議会」は地下鉄橋本駅と木の葉モールを軸とする再開発事業に連動して作られた。

2、社会実験の状況
1)第1回の実験
・平成23年10月29日から平成1月28日までの3ヶ月
・事業者は西鉄バス、12人乗りのジャンボタクシーを使用
・コースは
Aコース 橋本駅発着、壱岐団地北エリアを周回     1日24便
Bコース 橋本駅発着 野方2丁目~5丁目を巡回    1日27便
・料金は一律200円
結果
・1日平均乗車人数(平日)
Aコース  22.4人
Bコース  48.4人
地域住民アンケートでは継続の要望が強く家家族についての検討。利用が少ないAコースは廃止、利用者増を図るために運行ルートを延伸するとともに病院を回るコースに変更した。また、コスト削減のために減便と運転手をOBにした。市への城西の油性と地域の秒医や小連からの協賛金の要請、広告収入等の営業活動を行った。その結果協賛金が月に23万5千円を得ることができ、またバス運行事業者から社会貢献という観点からの支援を得ることができて社会実験を継続することとなった。

2)第2回目の社会実験
・平成25年12月1日から9月30日(6ヶ月の社会実験の後更に4日減の延長、計10ヶ月の実験)
・一部バス路線を走行。1日13便
・料金は一律170円
結果
・1日平均乗車人数 93人 質し謝意州月9月は107人
運行開始後徐々に利用者は増え、採算ラインである150人/日に近づける可能性を感じられた。しかし事業者の協力が得られず運行中断となった。しかし、ミニバス運行に対する住民の熱意や病院など協賛社の熱意で事業継続について課題を検討することとなった。課題として利用者を1日100人以上確保する取り組み、運行コストを下げるため運行事業者をタクシー会社にする、便数を1日11便に減便する、協賛金をこれまで通り継続して頂くことで再開することとなった。
新たな課題は、一部バス路線を走ることからバス利用カードと共通システムを使うこととなり、カード利用者の割引が発生することで利用収入が大幅に減ることとなった。170円の基本料金で設定しているがカード利用者を含めると123円程度になる。市の助成が必要と思われる。

3)第3回目の社会実験
・平成26年12月7日から平成28年5月31日まで
・事業者 福岡西鉄タクシー
・1日11便 両周り
・料金 一律170円(バス利用カードが使用できる)

3、今後の課題
運行継続するためには1日盛者数を100人以上に、経営を安定化させるためには130人以上の利用が必要としている。同時に経営が自立できるためには160人が必要と考えられており、それまでは協賛金を従来通り確保することが前提となっている。現時点では月に28万5千円確保できていること、また1月の大雪の日の利用が1日114人、130人の日があったことから今度運転できなくなった人の需要は確実に見込まれると考えられることから、必要性と可能性が確認できたとしている。将来的には利用者が増えると12人乗りジャンボタクシーでは積み残しの問題が起こることが考えられ、事業者はタクシーで対応するとしているが、1台しか地区に配置していない現状では問題は残るとしている。自治協としてはマイクロバスを運行する必要があると考えており、そのためには一部狭隘な箇所についての道路拡幅を市に要請している。また、運行事業者、地元企業、行政、地域住民で構成する「橋本駅循環ミニバス運行連絡会」を作っており、本格運行に向けて必要な課題を解決していくとしている。

4、所見
橋本地区の取り組みは地域住民、とりわけ自治協の取り組みは大変な熱意を感じた。超高齢社会が間近にきており、高齢者や障害者の移動の確保は極めて重要である。住み続けた場所で住み続けることが可能にするためには、単に交通政策だけではなく地域包括ケアシステムとの連携など市の横断的な取り組みが必要である。いま、国では人口減少社会、超高齢社会を迎え、持続可能な社会形成に向けて「立地適正化計画」という新たな取り組みが始まっている。福岡市においても、住民の熱意に頼るだけではなく、住民の熱意を生かし、持続可能なまちづくりに高める必要がある。そのためには、「立地適正化計画」の検討・活用を進め、西鉄独占を前提にした交通政策ではなく、地域の様々の交通事業者と連携していく必要がある。

※立地適正化計画:国土交通省は持続可能な都市形成を目指して、昨年から新たに都市計画法における土地利用制度とは別に自治体が交通結節点などを機能誘導地域として指定し、介護施設や病院、公共施設などを誘導できるように補助制度を新設。また交通結節点など居住誘導地域を指定して居住を誘導することで都市機能を高めることができるようにしている。自治体の政策に財政的支援がされるとなっている。

やまさか乗り合いタクシー(北九州市おでかけ交通)調査
日時 2015年11月19日
説明 光タクシー石橋孝三社長

1,取り組みの経緯
北九州市八幡東区の枝光地区は官営製鉄所が建設されて以来、八幡製鉄所(現新日鉄住金)の本事務所を中心に職員の住宅地と商店街として発展してきた。光タクシーも戦後八幡製鉄所専門のハイヤーを中心としたタクシー会社として経営してきた。八幡から工場が撤退し、高齢化が進み、商店が閉鎖が多くなってきたことから、このままではタクシー事業も難しいとして、新たな事業として乗り合いタクシーを15年前から始めた。
高齢者が多くないり、タクシーは日常生活の移動の手段としては高いが、乗り合いタクシーにすれば安く利用できること、生活圏と商店街を結びつけることで
商店の利用が増え、商店街の活性化と交通の利便性を確保できる。結果として託し利用も1.5倍程度になった。利用者は使い分けをするので乗り合いタクシーとタクシー利用は競合しない。むしろ外出の機会が増え、相乗効果が出る。
商店街の条件としては、そこで生活に必要なものは全てそろうことが重要で、地元スーパースのピナがその要となっている。商店街の店は10店増え、跡継ぎの若者も帰り始めている。乗り合いバスは商店街を起点に一方方向の巡回コース。イオンショッピングモールがすぐ近くにできたが商店街は維持されている。
2、運営
ジャンボタクシー2台で5コースを運行。
300日(日祭日は休み)、1日62便、商店街を起点に一方方向の循環運行、 1コースは20分前後。
一人150円均一
回数券を発行している。タクシー利用と共用できるが、タクシーは5%しか割 り引きできない。タクシー券と路線バスとに分ければ1割割引できるが、利用 者はタクシーと共用できる方がよいと言うことで21枚件を3000円で販売 利用者は年間10万人弱

3、経営
これまで黒字であったが、昨年は150万円ぐらい赤字
市からの助成は受けていない
利用収入は1日にタクシー売り上げの1.5倍3万円程度が目安。ジャンボタクシーになると経費が増えるため。

4、所見
高齢社会を迎え移動の自由を保障するための交通システムとして乗り合いタクシーは有望と感じた。年金生活者にとってタクシーを日常的に利用することは難しいが、9人乗りジャンボタクシーであれば狭い道でも通行でき、また停車場も目印さえ置けば特に設置する必要はない。一方通行の循環運行で、20分程度のコースであれば便数も増やすことができ、商店街や医療施設、公共施設をうまく接続させることができれば利便性向上も可能と考えられる。乗り合いタクシーは今後の公共交通としての可能性を秘めている。

おでかけ交通(北九州市)
調査 2014年3月30日                                        北九州市にて調査

1、おでかけ交通
1)事業の経緯
おでかけ交通が始まったきっかけは、1999年に八幡東区枝光地区において地域住民と地場タクシー会社である光タクシーによって枝光本町商店街を起点とした乗り合いタクシー運行が提案されたことからである。2000年10月から試験運行、2001年4月から本格運行がされた。枝光地区は急傾斜地で道路が狭隘であり,路線バスは一部しか運行されていない交通空白地帯である。この枝光地区の事例を基に、2003年4月から小倉南区合馬・道原地区、平尾台地区、八幡西区木屋瀬・楠橋・星ヶ丘地区の3地区で路線バス廃止に伴う代替交通として「おでかけ交通」制度を確立した。現在、路線廃止対策地区として6地区(1地区が代替対応で休止)中、高台地区対策として2地区の計8地区で実施、2014年度から2地区が試験運行。

2)おでかけ交通の仕組み
a対象地区
①バス路線廃止地区や高台地区などの公共交通空白地区
②高齢化率が市の平均を上回る公共交通空白地区など

b手段
地域の状況によりマイクロバス※、ジャンボタクシー、タクシーを運行
※マイクロバスは小倉南区合馬・道原地区で当初小学生の通学にも使っていたが、小学  生が減ったため現在はジャンボタクシーとなっている。

c運行形態
地域のニーズに合わせて運行車両および運行時刻・便数を事業者と住民で決めている
料金についても事業者と住民で協議の上決めている

d市の支援
①交通事業者が運行開始時に要する費用に最大460万円の助成
車両購入費およびバス停の設置費等
②交通事業者が車両更新時に要する費用に最大300万円の助成
③交通事業者の収支が赤字の際、赤字の一部を助成
ア助成金交付要件
収支が赤字であり、運賃が200円以上かつ運行開始後1年以上経過していること
イ助成内容
運行経費から協賛金等を除いた経費に対する料金収入の比率(収支率)×赤字額
事業者および利用地区住民の努力が反映する仕組みにしている
ウ助成状況
枝光地区は助成はゼロであるが他地区は年間100万円程度
④2010年度より地域が主体となって試験運行する際に、既存事業と同じように赤字  の一部を助成
⑤運営委員会と事業との仲介等の支援

e運営主体
地域住民組織で運営主体を作り、事業の可能性を検討、運行計画をたてる。地域住民組織としては町内会を中心とした運営委員会やまちづくり委員会が作られている。運営委員会は事業者との協議や、地域住民の運行時刻や便数などのニーズ調査を行う。市は運営委員会の活動について助言やアンケート作成に協力している。準備が進めば市が市内のタクシー協会に事業者の推薦を依頼して地域に紹介する。運営委員会に対する市の助成はないが、集会所等市の施設利用については減免措置がなされている。運営委員会の運営は地区によって異なり、枝光地区は年4回開催されているが他地区は年に1度である。運営委員会とは別に事業者と役員との意見交換の場がもたれている。

2)枝光地区の事例
枝光地区は旧八幡製鉄所の従業員住宅地区として早くから開発された地区である。そのため坂道が多い上に道路が狭隘であり、車社会到来以前の町であるため駐車場を持たない家が多い。本町商店街には生活に必要な施設が集積していることから、商店街を起終点にしたジャンボタクシーによる乗り合いタクシーを運行することとした。13人乗りジャンボタクシー2台で、8時~18時の時間帯に5ルート、1日62便を運行。1ルートの所要時間は20分以内で運行している。料金は小学生以上150円均一。事業開始時の車両購入費の助成は受けているが、現在市から赤字補填は受けていない。乗り合いタクシーの停留所は平均300メートルほど。停留場の表記は道路が狭いために路上に表記している。
当初は利用者が非常に多かったが、近年利用者の減少傾向にある。その原因は運転免許証をもった女性が増えたことで、高齢者になっても運転している例が多くなった。しかし、いずれその人達も高齢になれば利用せざるを得なくなり、利用者が増えるものと考えられる。運営委員会では利用者を増やすために回数券を売っているが、更に枚数を増やした回数券を作り販売に取り組んでいる。
枝光地区が市から赤字補填がない理由として、当初から熱心な地域住民が計画に関わってきたことおよび運営委員会の取り組みが大きいとおもわれるが、光タクシーとして地域貢献の事業として努力していることにのあると思われる。光タクシーは「おでかけ交通」に取り組んだ副次的な効果として光タクシーの利用が増えているという話があり、社会貢献事業として多少の不採算部分もトータルに解消できている面があると考えられる。

所見
高齢化社会を迎え、移動のの確保は大きな課題である。交通空白地帯だけではなく、一定距離に公共交通があったとしても出来るだけ身近なところでの交通機関の確保は必要となる。枝光の取り組みはその点でもいくつかのことを示唆している。それは
①中央区鴻巣山周辺や早良区の陽光台などの高台における移動の確保の手段としてジャンボタクシーの運行が効率的であること
②美和台の実験の場合や利用者が少ないところではジャンボタクシーによる乗り合いタクシーが適していること
③交通空白地帯でなくてもジャンボタクシーによる乗り合いタクシーによる交通手段は高齢者や障がい者の移動手段として有効であること
今回の調査で地域の移動手段を確保するためには、改めて熱心な地域住民の取り組みと地域貢献する事業者の存在が大きいことを感じた。