法務特別セミナー参加報告

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日時 2016年7月20日~22日

場所 鹿児島県自治会館

主催 一般財団法人地方自治研究機構

講師 平谷英明自治大学講師、小舟賢甲南大学法科大学院准教授

 

今回のセミナーは公共政策と政策法務の関係、地方分権が進む中で団体自治としての政策法務である条例づくりと評価のあり方、住民自治について、および政策法務のもう一つの業務である行政訴訟について具体的事例で学習した。地方分権が進み、国と地方の関係が変わり、それに伴い地方自治体の政策能力の強化が求められている。自治体の法の解釈権が広がり、国の通達や通知は参考であり規制ではなく、地方の事情に合わせた上乗せや横出しが可能になっている。また、住民自治の広がりで、市民の政策決定過程の参画や、市民およびNPOや民間事業者などとの協働が広がっている。訴訟においても機関訴訟についての取り組み、義務づけ訴訟、条例制定も行政行為として訴訟の対象になるなど新たな事態への対応が必要となっている。また、行政不服審査法の改正にともなう対応も求められている。

第1講義 政策法務のポイント

1、公共政策の見方作り方

公共政策は社会の構成員の共通利益に関わる問題について、目的と手段の体系を作ることである。近年地方分権が進み自治体の権限が強化されたことと、私的な解決手段が縮小していることから課題が増えている。公共政策の体系は政策(戦略)、施策(戦術)、事業(戦闘)の体系化がなされる。公共政策と政策法務の関係は、公共政策の手段を公示するものである。

公共政策のあるべき姿としては憲法に規定された人権、生存権など社会的公正の実現を目的とし、社会的弱者に十分配慮がなされなければならない。同時に合理的効率的である必要がある。成功する政策として、費用対効果、規制、誘導、支援、調整などの行政手段と権限、財源、人材、情報などの政策資源を目的に応じて組み合わせ、成果と及ぼす影響について評価される必要がある。近年政策資源としての情報の重要性の高まり、また行政手段としての誘導として経済的インセンティブや社会的貢献に対する表彰によるインセンティブなどがある。

2、プロセスと組織

プロセスとして、①問題設定、②立案、③決定、④執行、⑤評価となる。政策決定過程には設定段階によるモデルと政策決定主体によるものがある。執行においてゆがみが生じるが、その原因は①裁量性に富む、②相手方から影響を受ける、③現場での対応が求められる、④インフォーマルな手段(行政指導など)が多用されることによる。執行に当たっては、規制政策の場合は違反者の類型と執行戦略の類型を、給付政策の場合は申請を抑制させない対応と事後のチェック、現場職員への対応など考慮する必要がある。

行政組織としては階統制の官僚制となっており、軍隊型とネットワーク型の2つのタイプがある実際はこの中間型が多い。決済制度としては稟議制のボトムアップ方式、集団で任務遂行する大部屋主義が取られ得入る。近年、民間の経営手法を行政運営に導入するニューパブリックマネージメントが多用されている。しかし、公法と私法が強雨ツウの基盤にある欧米諸国で導入されてきたが、ドイツや日本などの大陸法家の国ではなじまないものがある。性急な導入による問題も起きている。

3,政策法務のマネジメント

政策手段としての条例の起案、作成、執行・評価、訴訟において中心になるのは原課で法制担当との連携が重要。自治体トップのリーダーシップ、庁内組織の早い段階からの設置、人材育成および法務能力の向上が求められる。

 

第2講義 自治体法務と地方分権改革

1、自治体法務の前提

地方分権が進み自治体の自己決定権の拡充および国と自治体は対等の関係になった。自治体職員の法制執務能力の一層の向上が求められている。行政行為は法律に基づいて行わなければならない。統治の原則として国民が主権者であり、国民によって選ばれた代表によって構成される国会は国権の最高機関で唯一の立法機関と憲法は定めている。

行政行為は法律に基づいて行われなければならず、国民の権利を制限し、または義務を課すときには法律によらねばならない(侵害留保説)。公権力の行使に係る行為は法律の根拠が必要(権力留保説)。国家作用のうち重要なもの(組織法定主義、給付行政、計画行政など)は法律の定めをする(重要事項留保説)。全ての行政活動に法の根拠が必要(全部留保説)があるが行政の硬直化を招くとされている。

地方自治体は憲法で自治行政権を与えられている。地方自治の根拠には固有説、伝来説があるが制度的保障説が通説となっている。地方自治には住民自治と団体自治がある。住民自治は地方自治の本旨として住民の政治参加で住民の意思を地方政治に反得させることにある。長や議員の選挙はその一つである。団体自治は国などの介入を排除し、国と対等に行政を行う。

2、自治体法務と施策法務

自治体の法務として①立法法務、②解釈運用法務、③訴訟法務、④評価法務、⑤審査法務、⑥窓口指導や現場審査などの基礎法務、⑦域管理法務がある。地方分権が進んだことにより、機関委任事務と地方の個有事務に整理され、地域特性に応じた積極的な法務が求められている。

3、基本原理

国は自治体に対して指揮監督権を有しておらず、技術上の助言などにとどまる。策法務における諸原則として①信義誠実の原則(民法由来)、②権利乱用の禁止の原則(民法由来)、③比例の原則(規制目的と規制手段との均衡)、④平等の原則、⑤市民参加の原則、⑥説明責任の原則、⑦透明性の原則、⑧補完性の原則、効率性の原則がある。自治体法のマネジメントとして、地方分権で拡充された地域の状況に合わせた「条例制定権」や「法解釈権」を活かし、組織管理、時間管理、例規管理をすることが求められている。

訴訟は憲法の基本的人権と統治機構の枠で行われる。裁判所の判断基準は経済的自由権よりも精神的自由権を重く見ており、表現の自由は最も重いもので優越的権利と呼ばれている。表現の自由については内容の規制は難しい。経済的自由については社会政策的見地から行う規制は比較的規制しやすい。行政行為の訴訟においては行政裁量の違法性が問われることもある。

条例において罰則規定や禁止規定を設けるときは、罰則規定は刑罰法定主義から「明確性の原則」が求められる。不意打ち、後出し、不明確な用語や比例原則違反の条例、および不親切な対応、猫の目対応の運用は敗訴しやすい。

4、「法」の形式

地方分権が進み法令の自主解釈権が拡大した。政省令模倣ではあるが罰則など権利を制限したり、義務を課したりすることは出来ない。法以外で罰則など権利を制限したり義務を課すことが出来るのは条例だけである。自治体は政省令についても自主解釈権を有しており、地域の事情に合わせた運用をしなければ敗訴することもある。通達や通知は「技術上の助言」であり拘束力はない。行政実例も法的拘束力はない。

行政計画について、法定計画でも住民参加条例やパブリックコメント条例などがあればその手続きをする。自主計画でも条例で策定を義務づけることが出来る。行政計画についてはこれまでは計画実施後でなければ訴訟できなかったが、地方分権が進んだ今日計画策定段階でも訴訟が出来る。

自治体は法の定めがないエリアでも立法できる。また、法があっても目的が異なるものであれば立法できる。この場合は合憲性が問題となる。

法律の委任により定める「委任条例」には必ず制定しなればならない必置委任事務と条例を定めることで綱領を生じる「任意委任状例」がある。委任を受けていないが、執行のために制定する法執行条例には、委任を受けず書き換える「書き替え条例」と許可基準等を具体化する「具体化条例」がある。書き替え条例は違法性が高く、数は少ない。

規則には長が定める規則と委員会が定める規則があり、長が定める規則が優越する。規則には①法令で定める規則である独立規則、②条例の個別の委任を受けた条例委任規則、③届け出の様式など条例を執行するための条例施行規則、④書式や様式を定める法令執行規則がある。要綱は行政内部手続きを定めたマニュアルで、非権力的な行政作用を伴う。指導要綱、助成要綱、事業実施要綱、組織要綱などがある。今日、要綱を条例化する傾向がある。

協定は少なくとも一方の当事者が行政である協定と住民同士が当事者の協定がある。行政が当事者となる協定は紳士協定説、行政指導説、契約説があり、契約と認定されれば訴訟の対象となる。住民同士が当事者の協定には自治体が認定などの関与公的な位置づけをすることで一定の法律効果を付与するものと、建築協定のように法律に基づく協定制度がある。その他文書管理規程のような訓令・規程は単なる行政内部の取り決めでなく、住民にも関係する。

以上の総論を基に、第3講立法法務のポイント:条例の作り方、第4講解釈運用のポイント、第5講住民参加・情報公開・個人情報保護、第6講訴訟法務のポイント:具体的な訴訟事例(尼崎パチンコ条例、横浜市保育園廃止条例)で学習と行政不服審査法および行政手続き法改正について学習した。

 

所見

政策法務について漠然とした人市であったが、改めて政策法務についての理解が整理でき、大変よい学習機会となった。