福岡空港運営権譲渡(コンセッション)後の新会社への出資について(3月予算議会)

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去る3月28日に福岡空港の運営権譲渡後の新会社への福岡市の出資を巡り、新会社に出資することを目的とする自民党立案議案第107号「活力ある空港づくり条例(案)」が市民クラブ(民進・社民)修正案で成立しました。しかし、高島市長は3月31日にこの条例案について、地方自治法に基づいて再議(再度採決を求める)に附しました。議会は4月12日まで延長し審議をしました。再議で議案107号が採決されるには、議長を含めて議場に在籍する議員の3分の2以上の賛成が必要です。市長は再議に掛け、採決が行われまでの間、副市長などを使い個別議員の切り崩しを図りました。その結果自民党議員1名が翻意し、賛成41,反対21となり議案第107号は否決されました。、

3月28日の条例案の採決では、私は同じ会派の議員とともに、「民意出来ることは民に」という理由で出資しない市長案にも出資を求める自民党案にも賛同できないことから、退席し棄権しました。出資を求める条例案は採決の結果賛成39,反対20で可決されました。この数は、市長が再議に附しても再度可決できる数であり、「出資すべし」ということが議会の意思として明確でした。しかし、再議に附されました。

再議において審査に附された第3委員会へ、議会として再々市長及び副市長に出席要請しましたが、6時間後に副市長2名がようやく出席、市長は理由もなく最後まで出席を拒み続けました。そのため審議が進まず、12日午後1時開会という当初の予定から大幅に遅れて13日午前2時30分から本会議が開会される事態となりました。再議に附すことは市長にしか出来す、再議に掛けた市長は委員会で質問に答える責務があります。理由もなく出席を拒み続けたことは議会軽視甚だしいものでした。

再議に附されたため、私たちは改めて意思を明確にすべきと考え賛成に投じました。以下その理由を述べます。

 

再議1号議案第107号「活力ある空港づくり条例(案)」に関しての所感

市議会議員 荒木龍昇

この再議は去る3月28日の本会議において可決された「活力ある空港づくり条例(案)」が再議に附されたものです。私たち緑と市民ネットワークの会は3月28日の採決時において、市長の主張及び条例案についてともに疑義があり、その旨を討論において述べて退出し棄権しました。この採決では賛成39,反対20であり、再議しても可決することが明確な数字で議会の意思は明確でした。この様な状況にもかかわらず、市長が再議に掛けることはこの議会の意思を無視することです。地方政治は市長と議会の二元代表制であり、議員は市民の付託を得て議会を構成しています。市長が再議に附し議会の意思を無視したことに抗議します。再議に附されたことで、私たちはこの間の経過を振り返り、また様々な市民の意見を伺い、私たちの意思を明確に示すこととしました。

私たちはそもそも福岡空港の「経営権譲渡」については反対してきました。その理由の一つは、福岡―羽田便をメインする国内路線が約8割を占める福岡空港は、超高齢社会を迎え今後需要増が続くとは考えられず、仮に容量不足になっても北九州空港と連携すれば福岡空港の滑走路の増設は必要がないと考えています。超高齢社会、人口減少社会を迎え日本経済は縮小していきます。国の借金は2016年12月時点で長期債務及び短期借入を併せて1067兆円となっており、これ以上ムダな投資をすべきではありません。全国に92の空港を認めてきた無秩序な空港政策の上、更に運営権譲渡で過剰な競争を創り出し、勝ち組・負け組を生み出し、更なるムダを増やすことになります。福岡空港の滑走路増設は必要ありません。

二つ目は運営権を譲渡するコンセッション方式は、投資した企業は利益を得ますが国民に負担を求める構造にあることです。国は運営委託と言っていますが、いわゆる委託とは大きく異なり、経営権譲渡は特別目的会社が施設を借り受けて経営するものです。福岡空港の場合は空港の管制以外の滑走路の維持管理、航路誘致、空港使用料の決定、空港ビルや駐車場の経営全てを行います。2014年11月に市長及び知事名で国に出した意見書では、経営権譲渡の条件として、福岡空港の借地料年間82億円を国が負担することを求め、そのようになっています。本来施設を利用して利益を得るのなら、施設の維持管理に必要な経費は経営する事業者が負担すべきです。市長は「民に出来ることは民に」と言っていますが、市長が言う意味は不採算部門が市民負担・国民負担であっても、投資会社が利益を得ればその恩恵がやがて市民に行き渡るというトリクルダウンが起こるからコンセッション方式がよいというのでしょうか。私たちはこの様な考えには賛同できません。弱肉強食の競争を生み出す経営権譲渡・コンセッション方式を進めることは止めて、国が全国的な視野で均衡ある航空政策を進めるべきです。

また、これまでの経緯を振り返った時、経営権譲渡についての議論や経営権譲渡後の新会社への出資について議会で議論が十分になされ、また議会の意思がどの様にくみ取られたのか、疑問があります。この間の質疑において、福岡空港の経営権譲渡のスキームに関する中間報告において、自治体から派遣できる非常勤役員の数が1ないし2名と記されていたことについて、港湾空港局長は国は当初から自治体から派遣できる非常勤役員の数は1名であったが、中間報告作成時に1ないし2名にするよう国にお願いしたのであって、自治体から派遣できる非常勤役員は1名と繰り返し答えています。この答弁から読み取れることは、2014年11月に国に意見者を出した時点から既に高島市長は新会社に出資しないと国に伝えていたのではないかと思わざるを得ません。昨年10月の第三委員会において、福岡市が新会社に出資しない考えを報告していますが、議案でないことから議会に報告だけを行い、議会の審議を経ず国に出資しない旨を伝えています。新会社への出資について、重要な案件にもかかわらず議会に審議すべきものとして扱うことなく、2月議会において福岡空港ビルディング株式会社の株の譲渡益に関する処分案として議案に挙げたことは、市長が議会を軽視したと批判されるに十分な理由といえます。今回議案第107号「活力ある空港づくり条例(案)」を提出することで、初めて議会として新会社への出資の是非について審議することが出来ました。

次に、現時点の議論は運営権譲渡を前提としたものになっています。この様な状況において市民にとって何がよりよい選択なのかです。市長はリスクがある出資よりも市民のために使った方がよいと主張しています。通常の民間企業への出資であれば確かに元本割れのリスクはありますが、リスクについての検討は重要ではありますが、出資するか否かは政策的判断によるものです。むしろ、成田空港では使用している航空会社に販促金を出すなど航路誘致競争が始まっており、リスクの問題よりも多くの議員が述べているように、私たちは不採算部門である空港周辺対策が新会社の本来業務として履行されるのかという懸念を持っています。福岡空港の滑走路が増設されれば騒音区域が広がる一方、近年航空機の小型化と性能向上で騒音区域が縮小しており、かって騒音区域であったところや新たに騒音区域になるところが出てくることになります。この様な騒音対策や地域整備対策が複雑化することにどの様に対応していくか、大きな課題です。国は空港周辺整備機構をつくり空港周辺整備をしてきましたが、禁煙事業を縮小しており、運営権譲渡後は新会社が事業を引く次ぐことになっています。

ところが、福岡空港の運営権が譲渡される新会社は、投資を集めるために利益率を確定して出資を集め、利益確保が最重点になります。成田空港のように航路誘致に掛ける費用は不採算部門の削減から生み出すことになると考えます。運営権譲渡後は空港法の規定による法定協議会で新会社と自治体との協議の場が持たれてことになっていますが、多くの議員が指摘するように飽くまでも協議の場であり、尊重義務はあっても履行の強制力はありません。また、市長は、運営権譲渡の契約において履行責任は担保されていると言いますが、そもそもコンセッションを進める国が積極的に事業者を縛るとは考えられません。空港周辺整備は基本的には市が責任を持つことが前提ですが、収益事業を行う新会社は応分の責任を果たすことが求められます。新会社に応分の責任を履行させる為には,少額でも出資して内部からの監視が必要と考えます。もちろん、出資すること権利がどれだけ行使できるか限界はあると思いますが、営利企業に不採算部門の事業を契約通り履行させるには多様な取り組みが必要と考えています。そしてその財源は不用額となっている7億8千万円の枠内で行えば、市民に負担を掛けずに行えます。

市長は新会社にリスクがある出資をするよりも市民のために使った方がよいと言っていますが、市長はこれまで人工島の土地処分のために立地交付金や住宅市外総合整備事業補助金に多額の一般財源を使い、他方子どもの貧困問題が社会的な課題になっているにもかかわらず就学援助の対象者を削減し、また保育園への補助金5億円について予算化されていたにもかかわらず制度変更を理由に執行していません。このような事実を見ても、市長があたかも市民のために優先的に税金を使ってきたかのような主張は当たりません。福岡空港ビルディング株式会社の株の譲渡益は、空港未来基金に予定されていた7億8千万円を除いて、既に子ども未来基金に30億円、スポーツ振興基金に20億円、その他学校施設整備や災害対策の公的備蓄などに支出が決まっています。2月議会で否決された空港未来基金についての質疑で明らかになったように、基金の積立金は当面の支出の予定はありませんでした。空港未来基金条例案が否決され、不用額となっている7億8千万円の枠内で出資を検討すればよいのです。この7億8千万円は福岡空港ビルディング株式会社に出資していた額と同額であることから、新会社への出資が市民に不利益をもたらすとはなく、市長が出資することで市民に不利益をもたらすとことさら主張することは市民を欺くものです。

最後に、出資する場合は予算を伴うため議決が必要となりますが、出資しない場合は議案に掛けなくても済ませることが出来ます。しかし、今回の福岡空空港の運営権が譲渡される新会社に出資するか否かは福岡空港が位置する福岡市民にとって重要な問題であり、出資の是非に関する意見を議会に求める責務が市長にあると考えます。今更福岡市として出資を申し出ても入札などが遅れるなど問題だと言いますが、この間市長が議会に対して誠実に対応してこなかったことが招いた事態です。更に、3月28日の議案第107号の採決結果についての市長の判断は間違っており、力尽くで結果を変えようとする姿勢は市のトップとしてするべきではありません。市長は議会の意思を真摯に受けとめて対応すべきです。