国家戦略特区と 「働き方改革」 その実態は、「使い捨て労働」の実験場

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福岡市は2014年6月に東京圏、関西圏、新潟市、兵庫県養父市、沖縄県とともに国家戦略特区に指定されました。

まず「雇用条件の明確化」のためとして「雇用労働相談センター」をスタートアップカフェ内に設置しましたが、これは起業する者に解雇指南をするもので、国会でも問題となりました。九州労働弁護団も労働者の権利を侵害する懸念があると抗議しています。また、外国人留学生の在留条件の緩和による、安価な労働力の提供も目論まれています。そのほか、起業支援として起業後5年間に限った法人市民減税の条例や、優良な人材提供として公務員が民間企業に就職しても同じ条件で公務員に戻れる条例改正も行われました。

9月4日に福岡市は、“賃金を電子通貨で日払いする”という特区申請をしました。これは、「給料前借り特区」と呼ばれ、賃金について、原則として通貨で、一定の期日に直接労働者に支払うことを雇用者側に義務付けている、労働基準法に違反するものです。もしこれが採用されれば、労働者は生活設計することが難しくなり、場合によっては借金地獄にはまりかねません。過労死レベルの残業時間を容認する「残業代ゼロ法案」などと連動し(右上図参照)、経営者に有利な「使い捨て労働」の仕組みを支えることになります。これが「市民の生活の質の向上」と言えるでしょうか? 非正規雇用は増え続け、年収300万円以下の世帯は増え続けています。

 

「市民の生活の質の向上」は?

天神ビッグバンは、東は水上公園から西は大名小学校跡地まで、明治通りを軸にした約17haの再開発計画です。航空法によるビルの高さ規制は、国家戦略特区により2014年に67mから76mに緩和されていますが、天神西側地区では115m、東側地区では99mへ、さらに緩和しようとしています。そのほか容積率緩和なども組み合わせて、延べ床面積は1.7倍、雇用者数は2.4倍に増え、10年間の投資額は2900億円、経済波及効果は8500億円と市は見積もっています。

その第1弾、水上公園のレストランでは、900円/㎡の激格安で西鉄に土地を貸し付けています。大名小学校跡地利用計画では容積率が800%に緩和され、これも西鉄が優先的に採用されようとしています。さらに同レストランでは、都市公園法においては違法であるものを、水上公園と西中洲公園(赤煉瓦会館前)を一体化することで都市公園法をクリアするという脱法行為をしています。

以上のように、福岡市の国家戦略特区は「解雇特区」と呼ばれるように、これまで積み上げてきた労働者の権利を破壊し、「使い捨て労働」を作り出す実験場となっています。同時に、天神ビッグバンに見られるように特定の企業が優遇されています。西中洲に広がる駐車場の風景やワンルームマンションが林立する現状を見ると、天神ビッグバンの実現性は乏しいでしょう。また、都市部への交通量増加など新たな課題が発生し、その対策も必要になります。市税収が2年連続最高額であったと市長は言っていますが、固定資産税は増えたものの、法人市民税は減っています。福岡市の経済の底堅さは見えません。何より「都市の成長」への投資が「市民の生活の質の向上」につながっていないことは明らかです。真に「市民の生活の質の向上」に焦点した施策が必要です。

「学びの場」に求められる「多様性」

夜間中学校の設置を求めました

夜間中学校は敗戦後の混乱期に、生活難などから昼間に就労などせざるを得ない児童が増え、昼間に就学できない児童を対象に、教師の自主的な取り組みから始まりました。夜間中学校の設置後も不就学児童は多数存在し、2010年の国勢調査では15歳以上の不就学者は12万8千人いるとされています。このような事情から、夜間中学校は就学適齢期を過ぎた方も受け入れてきました。

2014年の文科省が行った実態調査では、夜間中学校は全国で31校、在校生は1849人おり、外国籍が81%、日本国籍が19%となっています。また公立以外にも自主夜間学校や識字教室が321カ所あり、生徒は約7400人、義務教育未終了者が5%、不登校等により十分な義務教育を受けず卒業した義務教育修了者が4%いるそうです。夜間中学校卒業後の進路は、高校が約40%、就職が約35%で、これらの調査結果を見ると、潜在的なニーズがあると考えられます。

他方、2015年の調査で不登校児童は12万6千人いるとされ、90日以上不登校の児童は約6割を占め、年々増え続けています。憲法26条の「教育を受ける権利」や「子どもの権利条約」等を踏まえ、昨年12月に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(教育機会確保法)が制定されました。文科省は今年3月に指針を作り、全国の都道府県に1校は夜間中学校を設置することを求めています。

6月に視察調査してきた京都市の洛友中学校では夜間中学校と不登校生徒専用中学校が併設され、一部の授業が一緒に行われています。不登校生徒と夜間中学校生徒の異年齢の交流がお互いに刺激し合っているとのことで、こどもの成長に役立つと言われています。

福岡市でも不就学者が1847人、福岡都市圏で2579人います(2010年国勢調査)。福岡市においても、周辺自治体と連携しながら、洛友中学校のような不登校中学校と夜間中学校併設の中学校設置が必要だと考えます。