人工島見直し中間報告とパネルディスカッションと講演会

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人工島整備事業検証・検討の中間報告説明とパネルディスカッション
日時:2007年7月2日(月)18:30~20:30
会場:福岡市役所15階講堂

 この日は人工島埋立事業についての中間報告とパネルディスカッションでした。病院の統合移転については7月4日となっています。
 まず市長の挨拶の後に、担当職員から「人工島について、全ての土地を有効利用するための道筋をつけます」という市長の公約に基づき、1月から検証・検討の進め方を庁内プロジェクトで検討、3月に「検証・検討」の方針」を示した経緯を報告しました。検証の対象は平成16年の計画(博多港開発第2工区を福岡市が399億円で買い取り、福岡市が買い取った博多港開発第2工区については埋立計画を進めるという、山崎前市長の2度目の計画変更)を対象とするとしています。

検証の課題は
①事業計画の内容について、進捗状況及び成果について事業評価、
②事業の成果及び将来の見通しについて客観的評価、
③事業収支計画について分析、評価
 となっており、検証に基づく検討課題は、
○将来にわたって人工島の価値を高め、街づくりや土地処分が効率的、効果的に促進される方策を検討
 と説明しました。

 現状については東部地区の交通渋滞解消や、博多港開発第1工区において住宅開発が始まり千名ほどが住んでいる、オフィスビルにサイバー大学ができるなどなど一定成果を上げていると評価した上で検証結果として
①拠点形成や産業集積を牽引する企業立地の見込みが不透明
②市第5工区(福岡市が博多港開発から買い取ったエリア)におけるエリアの将来像や産業集積拠点の土地利用の方向性が不明確
③土地処分の進捗に依存する事業収支の安定性への懸念

 今後の検討の方策として、
①みなとづくりエリアにおける国際物流拠点機能の強化・企業立地の促進
②街づくりエリアにおける産業集積・企業立地の促進
③市第5工区におけるエリアの将来像や土地利用の方向性の明示
④街づくり、みなとづくりの展開を踏まえた交通基盤の対応
⑤事業の着実な推進の前提となる事業収支の安定性向上
 との中間報告がなされました。

 報告後、コーディネーターとして浅野尚人福岡大学教授、渡邊豊東京海洋大学工学部教授、佐々木寿吾キャピタルランド・ジャパン株式会社インベストメント部長(シンガポール政府50%出資の投資会社)、井出口敦九州大学大学院教授、林田スマ(フリーアナウンサー)の4名がパネラーとして登場し、意見を述べました。今回の人工島見直しの目的が「将来にわたって人工島の価値を高め、街づくりや土地処分が効率的、効果的に促進される方策を検討」となっており、パネラーも人工島埋立を進める「いけいけドンドン」の論調になることは容易に想像ができましたが、まさにそのようになりました。

○渡邊豊海洋大学教授
 博多港は地方から羨望の的である。地方港湾で唯一成功している。清水港より取り扱いが大きくなっているのに国では扱いが低いのはおかしい。中から見ると良さが分からないが外から見ると良さがよく分かる。港は市民生活に直接結びつかないが背後圏を含めて経済活性化に役立っており、ひいては福岡市の経済活性化に役立っている。大きな都市には必ず港があり、港がなくなれば都市は衰退する。世界三代美港のシドニーにも観光名所のそばには大きな港がある。港が閉鎖されたために衰退したいい例が堺である。清水港は富士山の景観に合わせてクレーンや建物の色が塗られており、市民と港が共存している。人工島にこのような港湾整備が進んでいるのはすばらしい。今すぐに役立たない、目に見えないもにお金を使うことに反対することはおかしい。福岡空港が滑走路が4000m(福岡空港は2800mであることを後で浅野教授から訂正)の滑走路だったから福岡市が発展したように、今効果が目に見えなくても港は大きくしないといけない。(まさにいけいけドンドン)

 会場から、博多港は5万トン以上の大型船が減り1万トンクラスのコンテナ船が増えているのはフィダー港化しているのであり、大水深の港はいらないのではないかという質問に、シンガポールも1980年代は内航船が主流のフィーダー港であったが努力して世界のトップを争うようになった、子どもの時代がありいずれ大人になる、博多港も今はフィダー港でいいではないか、日本で唯一北米航路が寄港しており、100万トンTEUに取り扱いが増えやがてハブ港湾になると答えています。しかし、増えているのは中国・韓国便であり、九州・瀬戸内海、韓国などからフィーダー貨物を集荷できような状況はなく、構造的にハブ港湾になる要素はありません。なにを根拠にハブ港湾になると言っているのか理解できませんでした。

○佐々木寿吾氏
 人工島の賃貸住宅に投資している。投資する条件として①歴史があり、②空港へのアクセスがよく、③適正な政策がとられ、④自然環境がよい、ことにある。今後の問題は鉄軌道の整備などインフラ整備が必要である。人工島は投資先としてすばらしいとしている。
(土地か極めて廉価で提供されており、様々な補助金が交付されているので投資に見合っているのではないかと思われる。アジアビジネス街や健康未来都市構想が進まないのはなぜか、答えてほしいものである。)

○出口九大教授
 福岡市は2025年をピークに人口減少が始まると見られており、人口増から人口減少への変化を迎える状況での都市計画は初めての経験、今後の課題である。人口移動後の都市のリサイクルを考えなければいけない。
 福岡の都市の価値を高めることを考えるべき。公園が都市の価値を高める。アメリカの都市計画を考えている人たちには、先に公園を造り残りの部分に建築物を配置するパークシステムという考え方をしている人たちがいる。公園をネットワークして街づくりを考えると良いのではないか。航空写真を見ると和白干潟が非常にすばらしい。海と山をつないだ福岡市全体の街づくりの視点で見る必要がある、
 都市の価値を高めるためには①専任のプロデュサーが必要、②都市の哲学が必要、③インフラ整備が必要。
人工島事業はすばらしい事業であり、プロジェクトを世界に広げる必要がある。
 今後の課題については、いま人工島に住んでいる人に意見を聞くべき。

○林田スマ
 これまで、人工島事業は生活者の目で見てきた。人工島は悪いイメージで始まったが、今後どのように市とともに街づくりをしてくかが課題だ。人工島ができれば鳥がこなくなると市民が不安を持っていたが鳥は来ている。すばらしいプロジェクトであることをもっと市民アピールが必要、市民と夢を分かち合えるためにもっと情報提供すべき、市と市民とのコミュニケーションが必要。

○浅野直人教授
 人工島は当初和白干潟全面を埋め立てる計画だったのを、私が和白干潟を残すように変えさせた。和白干潟と人工島の野鳥公園と一体の計画になっている。
 今映されている人工島の写真はよくない。飛行機から見ると人工島内の水域はなくなっている。事業はもっと進んでいることを市民に知らせるべきである。

 会場からの意見として、埋立中止について検討すべきではないかという質問に、事務局は中止は検討しない、埋立を進めることを検討するとすると答えています。今回のパネルディスカッションは、想像したとおりのいけいけドンドンでした。人工島事業の問題点について誰も指摘するものはなく、埋立を続け、土地処分がうまくいき、企業誘致も進むというバラ色の未来しか語りませんでした。
 桑原元市長、山崎前市長以下福岡市はこれまでもバラ色の未来を語り、市民を騙し続けてきましたが、土地処分が進まかったことをどうとらえているのでしょうか。土地需要がないことは、土地の資産価値が変わったこと、少子高齢化の進展と人口減少、産業構造の変化による構造的問題であるにもかかわらず、中間報告では土地処分が進まないことや企業誘致が進まない本質的な原因ついての認識が見えません。そして、山崎前市長の銀行との密約にやって人工島に投入した1000億円もの税金がどれだけ市民の役に立ったでしょうか、この検証・評価もありません。土地処分は難しいという検証結果を示していますが、銀行でさえ埋めて事業を見放したために福岡市が博多港開発から第2工区を買い取らなければいけなかった事実には触れていません。人工島は破綻しているという事実を認めず、埋立をすれば何とかなるという無責任な検証・検討し、借金が増えるとについての責任は誰が取るのでしょうか。市長以下職員や推進派の議員は当然責任を取るべきですが、パネラーにも応分の責任が問われべきと考えます。

「市立病院移転事業」検証・検討の中間報告説明と講演会
日時:2007年7月4日 18:30~20:30
会場:福岡市役所15階講堂

中間報告の説明
 対象は平成17年1月に出された「新病院基本構想」について犬種留としています。
①両病院統合の論拠について、合理性を検証
②新病院を人工島に創設することに決定した過程を検証すると共に、その内容について合理性を検証
③市立病院のあり方を検討する上での課題を抽出
 検討課題として
○担うべき医療機能など市立病院のあり方や整備場所の方向政党について検討を行う
としている。

新病院基本構想の概要は
①次世代を育成する「成育医療」の提供
・成育医療体制の整備
・周産期星医療センターの設置
②市民の安全と安心を守る「危機管理医療」の提供
・救急救命センターの設置
・子ども救急医療センターの設置
・災害拠点病院としての充実
③アジアへ発信する「高度医療」の提供
・3代死因に対する医療機能の充実
・アジア諸国からの医師や患者の受け入れ

施設概要 
人工島に
敷地面積約50,000㎡
建築面積約13,500㎡
延べ床面積約45,000㎡(464床)
駐車可能台数約600台

統合の主な論拠・理由
①医療機能の高度化を図る必要があると判断
②統合すれば経営の効率化が図れる
③現地建て替えが困難と判断

 財政状況は総事業費121億円のうち一般会計から収益的収支102億円のうち12.7億円、資本的収支19億円のうち6.5億円、計19.2億円が補填されています。収支状況は過去3年間は改善傾向にあります。 

検証結果は
 統合する論拠及び人工島への移転検討手続きには適正であったが、構想が作られて4年が経過する中で医療を取り巻く状況が変化したとしています。

環境の変化として
①福岡市の財政悪化
②自治体病院改革の動向として
 国の考え
 ・民間病院との機能重複の整理
 ・経営の合理化・効率化
自治体病院の改革
 ・地方公営企業法の全部適用
 ・地方度栗行政法人
 ・指定管理者制度の導入
 ・民間への移譲
③病床数が充足率127%(既存病床数19,233床、基準病床数15,054床)  および小児医、小児科を設置する医療機関の減少
④九大病院が救急救命センター及び小児医療センターを設置、および民間病院を新に災害拠点病院としてして指定

課題と今後の検討の方向性として
課題
①市立病院が担うべき医療機能
②財政負担を抑制する整備手法

検討の方向性
①医療機能の優先順付け
②医療機能の想定と財政負担
③担うべき医療機能と実現するための整備手法
④適切な場所(現地建て替えも検討)

 この中間報告では財政問題を軸に市立病院としての役割を整理し、経営主体も検討するとしています。

講演
自治体病院の役割と効率的経営
講師:広島国際大学講師 谷田一久

自治体病院の使命は
①歴史的使命として
・医療供給能力の不足を補う。医療施設の開設と医療技術者の育成。
・いつでも、どこでも、誰でも医療を提供する
②一般的使命として
・不採算医療を行う
・高度先進的医療を行う
③現代の使命として
○都道府県立病院は
 県内での公平な医療、他県との公平な医療、地域医療のコーディネーター
○市町村立病院は
 住民の健康を支える。住民健康を取り戻す、住民お命を守る医療
○政令指定都市率の病院は
 地域NO1の医療、地域NO1の誇りの医療をすることで地域に還元すべき。

 受益者負担は民間の論理であり、公の論理ではない。民間がすべきことは民間にいうが同時に公がすべきことは公がするべき。災害対応や治安維持などと同じように医療は受益者負担になじまない(教育や福祉も)。
 国の方針として民間との役割の整理が主張されているが、役割の整理はできない。自治体病院と民間病院が競い合うことで地域の医療水準を上げてきた。子ども病院の役割は高度医療技術が評価されており、医療水準を引っ張る役割と地域医療を支える役割があり、市民病院は民間病と競い合い地域医療の水準の底上げと地域医療を支える役割がある。

自治体病院に求められる効率的経営とは
 自治体病院の経営に求められるものは、投入されている税金が効率的に政策目的に使われているかが問題であり、必ずしも黒字になる訳ではない。自治体病院は現場の努力とは別に入札を原則とするなど制度的に非効率な仕組みなっていることが問題。
 自治体病院の医師は民間よりも低い給与で仕事しているが、公的な使命感が支えているようである。しかし、それも限度があり、病院経営が見なければいけない。経営形態の改革が始まっているが
①公営企業法の一部適用:従来型
②公営企業法全部適用:公務員意識の温存
③独立行政法人:自立性と企業性が求められる。第三者機関に経営だけでなく運営や事業計画、事業目的なども審査される。
④指定管理者制度:医療以外の運営を民間に丸投げすることは病院経営の放棄になる。
⑤PFI:日本の風土に合わないのではないか。建物だけをPFIにするのであれば、いいものを安くできるにこしたことはないが、医療以外の経営や運営をPFIにすると異なる業種を統合した特別目的会社を設立して経営することになり、運営が難しい。既にPFIの事例があるが成功した事例はない。
⑥統合運用:異なる業種を統合して運営しているが中途半なことがうまくいっている。事例がある。
それぞれ検討が必要である。

 経営効率を上げるために統合が検討されているが、統合することで必ずしもメリットがでる訳ではない。規模が大きくなれはマスメリットがでるが一定規模を過ぎるとデメリットが出てくる。また、子どもの医療と大人の医療と異質のものを統合することは文化の違いによるマネージメントの難しさや、求められる機器の機能の違いなどから経費的な節約効果が必ずしも出ないこともあり、統合効果を出すことは難しい。子ども病院のように高度な医療技術が評価されブランドになっているものが、統合することでブランド力が低下する。また組織が巨大化するとマネージメントが難しくなる。経験的に経営効率は200床程度がよい。この規模だと院長が全ての職員の顔を知ることができ、日常的な運用に無理がきき、運営がやりやすくなる。

 全国の自治体病院は財政難を理由に「貧すれば鈍する」現象が蔓延している。福岡市においてどうするのか、病院の統合移転を決めるのは市民であり、市長、議会である。

 この講演は納得がいくものでした。医療に受益者負担の論理を持ち込ませてはいけません。自治体病院は政策目的に添った税の負担と、効率的な運営が図らねばなりません。多くの市民がこの講演の趣旨を理解いただければ、人工島への統合移転はあり得ず、子ども病院が持つ役割を更に発展すべく現地での建て替え、医療施設の高度化を図ることに同意されると思います。また、市民病院も地域医療の水準の引き上げと、全ての人たちへの医療を提供する自治体病院の役割を果たせるように現地での整備に同意されると思います。