公契約条例調査報告

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ワーキングプアーを生み出す行政改革
 福岡市では厳しい財政情況で行政改革が叫ばれている。ところが、これまでの無駄遣いや相変わらずの無駄な公共事業を続けていることには反省せず、天下り先の事業を継続、破綻した人工島事業の継続、必要もない五ヶ山ダムやを続けている。かたや経費削減として市民サービスの切り下げや業務の外注化によるワーキングプアーを生み出している。財政健全化を進めるには、公でやるべき業務は何か、民間でやるべき業務は何か、市民を含めて議論をしていくことが第一歩。住民の福祉を実現することが地方自治の本旨であり、自治体自らワーキングプアーを作り出すことは地方自治の本旨に悖る。行政によるワーキングプアーを生み出すことを見直すために公契約条例について調査した。

公契約条例調査報告

 野田市が自治体で初めて公契約条例を制定した。その背景には,野田市長が競争入札でそのしわ寄せが下請けやその労働者に来ている実態を知り、公契約条例の必要性を感じたという。公契約条例は本来国の法律として定めるべき事項であり、全国市長会を通じて公契約についての法整備を求めた。しかし国は動かず法整備が実現されていないため、野田市長は自治体で条例を作ることで国に法整備を促したいという理念で動き始めたということであった。野田市長は条例制定後に全市・東京都23区へ条例制定を求める書簡を送ったと言うことである。

 リーマンショック以来、貧困の問題がより鮮明になり、その対策が社会的課題となっている。特に公契約において貧困を生み出している現実があり、地域社会の崩壊と地域経済の衰退、更に生活保護受給者の急増など社会的負担が増えるという状況が生まれている。公契約条例によって公共工事や委託事業での労働者の生活の保障がある程度出来れば、地域での雇用確保や地域経済の維持、ひいては地域コミュニティの維持につながる。少なくとも、公共の福祉を実現することが地方自治の本旨とする自治体において,公共事業や委託事業でワーキングプアーを生み出すことは問題である。また、一般競争入札における低価格の受注により、工事の品質の低下や市民サービスの低下が懸念される。福岡市においても指定管理者の入札では価格を引き下げるために契約と異なる人配置に換えるなどの問題が生じている。

 今回の調査で、①公契約条例を制定することの法的な問題はないこと、②公契約条例で契約価格が上昇するのではないかと言うことについては委託事業は多少上昇するが工事契約は上がっていないこと、③事業者もあまり反対していない、④事務的負担もそれほどでもない、⑤議会でも特に大きな問題になっていない,などが明らかになった。その大きな要因は条例制定時から雇用者サイド、被雇用者サイドを含めて検討を行っていること、議会でも議論されていることにある。条例で対象とする規模の工事契約の場合は、元々国の労務設計単価の80~90%は計算されている実態があることや、落札価格が予定価格の80~90%であること、委託契約については生活保護基準以上ないしは現業職員の初任給を基準にしていることなどで、事業者との合意形成が出来やすいことにある。手順を踏んでやれば問題ないと思われる。

 また事務事業の煩雑さについてはそれほどでもないとしており、性善説に立って制度を運用しており、双方に負担がかからないように配慮されている。また、対象事業を順次拡大している自治体が多く、体力に合わせて執行している様子が見られた。

法との整合性について

1,憲法27条第2項との関係
 「契約の自由」の基に契約の相手方に労働条件の遵守を求めるものであり、公権力的な規制ではない。

2,最低賃金法との関係
 2009年2月24日付民主党尾立源幸議員の質問趣意書に対する答弁書
「条例において、地方公共団体の契約の相手方たる企業等の使用者は、最低賃金法第9条1項に規定する地域別賃金に定める最低賃金額を上回る賃金を労働者に支払わなくてはならないとすることは、同法上、問題になるものではない。」

3、地方自治法との関係
 地方自治の本旨に基づき公契約の質の向上と市民生活の向上を図るもので何ら問題ない。

4,労働法上の論点
 公契約相手方の事業者に市が定める賃金以上の支払い義務を定めるもので、事業者は契約の自由は保障されており問題はない。

5、私的独占の禁止及び補公正取引の確保に関する法律に関する論点
 市が公契約条例を定めることによって市が不当に利益を得るものではなく、公契約の質の向上により、市民の福祉の実現にあるので問題はない。

6,WTO政府調達協定との関係
 条例に基づく手続きにおいて、入札参加の機会及び入札書の評価手続き等について、内国民待遇及び無差別待遇が与えられるのならば、直ちに政府調達協定違反にはならない。このことは総務省及び外務省にて確認されている。