他都市調査(川崎市、横浜市)報告書

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■川崎市

日時 2020年1月29日午前9時30分~11時10分

場所 川崎市人権・男女共同参画室会議室

説明員 市民文化局人権・男女参画室大西哲史課長

調査目的 「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」について、条例制定の経緯、条例の内容等について調査。

1、条例制定までの経緯

➀これまで川崎市は様々な人権施策を進めてきた。

・川崎市外国人市民代表者会議条例 (平成8年川崎市条例第25号) の制定

・川崎市人権施策推進指針の策定 (平成12年12月)

・川崎市子どもの権利に関する条例 (平成12年川崎市条例第72号)の制定

・男女平等かわさき条例 (平成13年川崎市条例第14号)の制定

・川崎市人権オンブズパーソン条例 (平成13年川崎市条例第19号)の制定

・川崎市多文化共生社会推進指針の策定 (平成17年3月) (最新改定 平成27年10月)

・川崎市人権施策推進基本計画の策定 (平成19年2月)

・川崎市自殺対策の推進に関する条例 (平成25年川崎市条例第75号) の制定

・川崎市人権施策推進基本計画の改定 (平成27年3月)

 

➁ヘイトスピーチによる新たな人権侵害が顕在化してきた。

2013年(平成25年)ころから在日韓国・朝鮮の方が多く住む川崎市桜本地区へヘイトスピーチによる人権侵害を行うデモが激しくなった。2015年11月、2016年1月のデモがピークに達した。標的となった社会福祉法人施設が2016年6月5日に計画されているヘイトデモを繰り返す男性のデモ禁止を求めて5月27日に横浜市地方裁判所川崎支部へ提訴、川崎市は5月30日に公園内行為許可申請に対して不許可、6月2日に地方裁判所川崎支部はデモ禁止の仮処分を決定した。仮処分決定の背景には2016年に「障害者差別解消法」「ヘイトスピーチ解消法」「部落差別解消法」が相次いで施行されたことにある。

 

➂公の施設の利用許可のガイドライン策定と条例制定の提言

2016年7月13日に市長が川崎市人権施策推進協議会に対し「ヘイトスピーチ対策に関すること」について優先審議を依頼。12月27日に市長に優先審議事項報告書を提出。提言は「1、公的施設の利用に関するガイドラインの策定、2、インターネット上の対策、3、策定すべき条例の検討(人権全般を見据えた条例の制定に必要な作業に入れるべきである)」としている。2017年11月に本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律に基づく「公の施設」利用許可に関するガイドラインの策定・公表。2018年3月31日、同ガイドライン施行。ガイドラインは行政手続き条例に基づく行政指導の根拠となるものである。裁判所のデモ禁止仮処分に基づいている。

 

➃条例制定

2017年10月の市長選挙において市長公約として「ヘイト対策条例」策定を掲げていた。条例は川崎市人権施策推進協議会の提言を踏まえて「ヘイトスピーチ対策に特化したものではなく、ヘイトスピーチに繋がっていく土壌に、直接対処する幅広い条例」とするとした。特に、一定の要件に該当するヘイトスピーチに対しては、「罰則等をもって規制する条例」とした。条例名は「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」とした。

2018年3月に条例骨子素案策定、2019年6月条例素案策定、同年8月にパブリックコメント、同年12月にパブリックコメントを受けて修正し議会に条例案を提出、付帯意見をつけて全会一致で可決。パブリックコメントの期間や条例制定時には条例制定反対者からの電話攻勢が担当事務局に集中した。調査時点では落ち着いているとのことであった。

2、条例の内容

➀条例の概要

条例は不当な差別のないまちづくりの推進を柱とし、市、市民、事業者の責務を定め、全ての人への不当な差別的取り扱いの禁止。市は、人権施策推進基本計画の策定、人権教育および人権啓発、人権侵害に係る支援、情報の収集および調査研究、市長の諮問について調査審議する機関として「人権尊重のまちづくり推進協議会」を設置。

 

➁不当な差別解消について

本邦外出身者に対する不当な差別解消に努めるとし、本邦の域外にある国又は地域を特定し、当該国又は地域の出身であることを理由として、道路、公園、広場その他公共の場所において不当な差別的言動を行い、行わせてはならない、としている。具体的には「公の施設」の利用禁止と、罰則を設けている。「公の施設」の利用許可のガイドラインは2016年のガイドラインが継承されている。

<禁止の類型として>

《類型》

  • 本邦外出身者を、その居住する地域から退去させることを煽動し、又は告知するもの
  • 木邦外出身者の生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加えることを煽動し、又は告知するもの
  • 本邦外出身者を人以外のものにたとえるなど、著しく侮辱するもの

《手段》

  • 拡声機を使用する。 ●看板、プラカード等を掲示する。
  • ビラ、パンフレット等を配布する。

 

上記類型の不当な差別的言動に対する罰則として、勧告、命令、公表・罰則を課す。措置を執る場合は表現の自由に留意するとしている。

<1回目 勧告>

・市長は勧告の前に「差別防止対策等審査会」の意見を聞く。ただし、緊急を要する場合で、その意見を聞くいとまがないときはその限りではない。

・市長は、1回目と同一の国又は地域の出身者であることを理由として、地域を定めて、勧告の日から6ヶ月間、上記類型の禁止行為を行ってはならない旨を勧告することが出来る。(地域。期間を定め、脱法行為を防ぐ)

<違反行為2回目 命令>

・市長は、命令の前に、「差別防止対策等審査会」の意見を聞く。ただし、緊急を要する場合で、その意見を聞くいとまがないときはその限りではない。

・市長は、2回目と同一の国又は地域の出身者であることを理由として、地域を定めて、命令の日から6ヶ月間、上記類型の禁止行為を行ってはならない旨を命令することが出来る。

<違反行為3回目 公表・罰則>

・市長は、公表の前に、「差別防止対策等審査会」の意見を聞き、また、公表される者にその理由を通知し、その者が意見を述べ、証拠を提示する機会を与える。

・市長は、命令に従わなかったときは、氏名又は団体の名称、住所、団体の代表者等の氏名のほか、命令の内容その他規則で定める事項を公表する

・罰則、命令に違反した者は、500,000円以下の罰金に処する。また、法人の場合は、行為者を罰するほか、法人等も罰する。(刑事罰にすることで、司法の判断を仰ぎ、公平性を期するとしている)

<差別防止対策等審査会>

・市長が専門知識を有する学識経験者5名以内で任命。当事者の参加も出ていたが、専門性が問われるとして学識経験者に限るとした。市長から、勧告・命令・公表および必要な事項について諮問される。

 

➂インターネットによるヘイトスピーチについては、インターネット表現活動に係る拡散防止措置として公表するとしている。

<対象>

  • 市の区域内で行われたインターネット表現活動
  • 市の区域外で行われたインターネット表現活動 (市の区域内で行われたことが明らかでないものを含む)で次のいずれかに該当するもの

・表現の内容が特定の市民等(市の区域内に住所を有する者、在勤する者、在学する者その他市に関係ある者として規則で定める者をいう。以下同じ。)を対象としているもの

・前記のインターネット表現活動以外で、市の区域内で行われた 「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」の内容を市の区域内に拡散するもの

※インターネットその他の高度情報通信ネットワークを利用する方法による表現活動で、デモや演説など他の表現活動の内容を記録した文書、図画、映像等を不特定多数の者による閲覧又は視聴ができる状態に置くこと(いわゆる「拡散する」こと。)を含む。

 

・インターネット表現活動が「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当すると認めたときは拡散防止の措置を執る。

・拡散防止の措置を執ったときには、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当する旨、表現の内容の概要、講じた措置その他規則で定める事項を公表する。公表することで「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」を拡散する恐れがある場合その他の理由がある場合は公表しないことが出来る。

・措置と公表は市民の申し出および市長の職権で行う。

・市長は、措置や公表を行う前に「差別防止対策等審査会」の意見を聞く。

・市長は、公表するに当たっては「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」の内容が拡散しないよう十分留意する。

インターネット表現活動は地域の特定(市域内しか条例は適用されない)、発信者の特定(条例は市民にしか対応できない)、拡散の関与についての立証、表現の自由などから、罰則を設けることは難しいとの見解。

 

➃附帯決議

議会内で処罰の対象が日本人だけでは不公平という声を受け、「本邦出身者以外の市民に対しても、不当な差別的言動による著しい人権侵害が認められる場合には、必要な施策および措置を検討すること。」が記載された。

 

3、パブリックコメントでの主な意見

パブリックコメントでは、18,243通よせられ、概ね賛成64%、反対26%、どちらでもない10%という結果であった。反対意見の主なものは、集会・言論の自由、表現の自由等の侵害、処罰の対象が日本人だけであり、外国人に対して罰則がないのは不公平との意見であった。市としては、表現の自由には十分配慮しており、処罰も勧告・命令・罰則と慎重に行い、刑事罰にすることで検察と司法の判断を求めるなどで公平性を期している、また現在起こっている事象は他者の生命・人体・名誉・財産を奪う具体的侵害に及ぶものがあり、裁判所の仮処分も出ており表現の自由として保護される限度を超えている、差別解消法等を踏まえているとしている。

パブリックコメント中や条例制定時には、ヘイトスピーチを是とする人からの電話が担当部局に集中していた。根強い在留外国人排斥の風土があることが見受けられた。

所見

川崎市の場合には、これまでも人権施策が積み重ねられてきたこと、市長の問題意識が高かったこと、更に裁判所の仮処分が出されるまでに事案が深刻化したことが全会一致での条例制定となったと思われる。他方、インターネットでのヘイトスピーチの対応は難しいものがあり、国としての対策が必要であることを感じた。また、差別をなくすためには正しい歴史を子どもの時から教育することが重要であり、安倍政権が進めている歴史修正主義の教育を改めることが重要である。

福岡市でもヘイトスピーチは相変わらず行われており、対策が必要と考える。特に外国籍市民やその家族が増えており、共生できる社会づくりが急がれる。その為には、川崎市のような外国人排斥を目的とする利用に対する「公共の施設」利用許可のガイドラインや「ヘイトスピーチ禁止条例」が必要であることを痛感した。共生社会を作るために、ヘイトスピーチ禁止条例制定に関して全市民的な議論の場が必要と考える。

 

■横浜市

日時 2020年1月29日午後12時40分から午後1時50分まで

場所 横浜市里山ガーデン管理事務所

説明員 横浜市環境創造局公園緑地部動物園課大窪和人係長

調査目的 公園PFI事業について、樹林地を生かした「フォレストアドベンチャー」について

1、パークPFI活用の経緯

横浜市を取り巻く環境として、人口減少社会・超高齢者社会の到来、都市間競争の加速化、厳しい財政状況において多様な市民のニーズへの対応と郊外部の活性化が求められている。他方、横浜市の公園の現状は公園の配置基準を満たした小学校校区は4割、整備を推進している。公園の9割は地域住民の公園愛護会が維持管理している。残りの1割の大規模公園は指定管理者に委託している。また、市民公園の中には樹林地を地主から借り受け公園にしているところもあり、地主の売却希望者からは購入することで緑地を拡大している。設置してから30年以上経過した公園が6割を超え、再整備が必要となっている。こういったことを背景に、2019年9月に「公園における公民連携に関する基本方針」を策定、2017年の都市公園法改正によりパークPFI制度(公募設置管理制度)を活用するとしている。パークPFI第1号としてよこはま動物園の未整備地区(里山ガーデン)の一部(3ヘクタール)を整備することとした。パークPFIは公園の利用目的に合った事業を公募し、一定期間公園を応募事業者に収益事業を認める替わりに、事業者の収益の一部を使って公園を整備・維持・管理させるものである。

2、「フォレストアドベンチャーよこはま」について

➀設置の経緯

里山ガーデンで、2017年春に開催された第33回全国都市緑化よこはまフェアでとったアンケートで、樹林地を残した遊戯施設の要望が多かったことから樹林地を活用するものとしてアスレチック等の遊戯施設を公募要件とした。

2018年11月に公募設置要綱(公募要項)を配布、2019年1月公募設置計画の受付、同年2月プレゼンテーションおよびヒアリング、同年4月公募計画の認定、同年5月基本計画締結、同年9月施設供用開始。申請者は有限会社パシフィックネットワーク1社であった。市による事前審査の後、有識者等による「横浜公園公民連携推進委員会」で審査し結果の報告を受け、設置等予定者を決定。評価された点は、➀事業実績に基づいた現実的提案であり、樹林地を活用した遊戯施設として集客が見込まれる、➁設置施設が樹林地等周辺環境と調和したデザインとなっている、とされた。フォレストアドベンチャーよこはまは2017年春の緑化フェアで期間限定のコンテンツとして設置したことから、公募が出来たこと、また現実的と評価に繋がっている。

➁事業運営について

事業は豊かな自然を生かしたアスレチック施設等。フォレストアドベンチャーを全国で8箇所展開しており糸島市にもあり、同様な施設としては最大級。大人向けのアドベンチャーコース、ファミリー向けのキャノピーコース、身長90センチからでも利用できるキッズコース、車いすやベビーカーでも利用可能なユニバーサルパスがある。事業者は公園の利用者が樹林地を散策等楽しむ遠路やベンチなどの市施設整備・管理も行う。アスレチック施設使用料は事業者が決定し、事業者が事業収益の一部を使って施設の維持管理を行う。ただし、ユニバーサルパス(車いすでも通れるアスレチック通路)のような特定公園施設は事業終了後買い取る形で補助をする(バーユニバーサルパスの場合300万円の内200万円を市が負担)。公園での施設設置占有料は主要なアスレチック設備部分のみに係る占有面積分を徴収する。事業期間は20年で、事業終了後は現状復帰となっている。諸事務用として、里山ガーデン管理棟の1室を無償貸与している。

利用料金はアドベンチャーコース3800円/人、キャノピーコース2800円/人、その他団体割引や個人ガイド費用がある。利用状況は9月から1月時点で約7500人、通常初年度1年で利用者8千人が目安と言われていることから見ると利用状況はよい。動物園に隣接していることや緑化フェアでの利用体験などが背景にあると考えられる。

所見

パークPFIは官民連携で自治体の負担が極めて少なく公園整備および維持管理が出来るものと考えられる。他方、誰でも利用できる公共空間が経済的理由で利用できないことは問題として残る。また事業者も投資に見合う収益がなければ維持が出来ない。今回の事例を見ると、いわゆるPFIとはやや異なり、株主配当が主たる目的の事業ではないと言える。樹林地を活用した体験型遊戯施設として評価できる。しかし、季節や天候等に影響を受け、経営が不安定であることなどから事業継続については事業者の経営能力や企画力が問われる。「フォレストアドベンチャーよこはま」は動物園に隣接していることから集客の見通しはある程度立つと考えられるが、どこでもこの様な施設が作れるとは考えにくい。

樹林地を生かした施設であり、土や樹木に触れることが出来、様々な障害がある児童などの療育としての活用も考えられる。福岡市においてもパークPFIを検討する際は、市民誰もが利用できる施設を検討する必要がある。