山崎市長は善戦したのか?

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8月30日のJOCにおける2016年オリンピック開催地国内候補決定の投票は東京33票、福岡22票となり、国内候補は東京に決まった。山崎市長は11票差について善戦と評しているが本当だろうか。JOCの期待通りに福岡市が動いたということであり、接戦で東京勝利というJOCのシナリオにうまくはまったということである。これは善戦でも何でもない、まさに鼻毛を読まれただけである。このような政治判断ができなかった政治家としての資質が問われる。また、市民に賛否を問わず、市民の声を無視して2億円もの税金の無駄遣いをした責任は大きい。山崎市長の責任を問うために2億円の返還請求の運動と、11月市長選挙における山崎市長の落選運動を訴える。
そもそもJOCが日本でオリンピック開催を提起したとき、47都道府県、14政令市全てに打診したといわれている。JOCは2008年オリンピック招致において、IOCの投票では大阪市がわずか6票しか取れず惨敗をしたことから、知名度や財政力、都市基盤から次回の候補地は東京都考えていた。選考が行われる前の今年2月25日付の報道で、JOCは2008年秋に開催されるIOC関連の国際会議「世界スポーツ・フォー・オール・コングレス」招致の国内候補地を東京に1本化することをIOCに届けていた。オリンピック招致国内候補地選考とは直接関係ないとしているものの、2009年のIOC総会における2016年開催地を決める前年であり候補地をアピールする絶好の場であり、JOCにおける事実上国内候補選定と考えてもおかしくない。このことを見ても、JOCの考えは見え見えである。
国内候補地をはじめから東京に決めれば国内は盛り上がらないため、盛り上げるために当て馬探しが行われた。また、石原都知事の度重なるアジア諸国への問題発言が大きな障害と考えて、当て馬をつくり石原知事の独走を封じることを考えていた。現に、JOC役員は「招致の難しさも知らず、自信過剰だった東京都に現実を知ってもらったという意味でも福岡はよく頑張ってくれた」と語ったと報じられている。これがJOCの本音だ。オリンピックをよく知っているジャーナリストもハッキリと福岡市が当て馬であったことを指摘している。
「人口150万人の地方都市でも開催できるオリンピック」は理念としては正しいかもしれない。しかし、競技数200種目を超え、多数の競技施設とドーピングテストなどの施設の整備、選手役員1万6千人の宿泊施設と食事の提供、またVIPのための五つ星のホテル400室など、IOC・競技関係者2万人の宿泊施設、報道関係者2万人のためのメディアセンターと宿泊施設を開催都市が準備しなければならない。国家規模でなければ地方都市でとても開催できないのが現実である。加えて、警備の問題を考えればなおさらである。
このように肥大化した背景には、IOCの収入を支えている主な収入が多額なテレビ放映権とスポンサー収入にあるため、テレビ放映、特にアメリカのテレビ局の影響が大きい。なぜオリンピックの種目が増えてきたのか、特に女性の競技種目が増えているのはテレビ局の要求による。より多くの放映権を売ること、より高く売るために、プロスポーツショウとして見栄えがすること、そして種目を増し、会場もテレビ放映を優先につくられる。まさに「37億人が見る世界最大のスポーツショウ」である。開催時期が8月になっているのもアメリカのテレビ局の都合である。アメリカではフットボール、ベースボール、バスケットボール、アイスホッケーに人気があり、これらのスポーツシーズンの端境期である8月に開催することでテレビ放映権を高く売るのである。
今のIOCは理念と現実とはかけ離れており、この構造が変わらない限り国家的規模でなければ開催できない。また、地方都市で開催するにしても国家が全面的にバックアップしなければできない。2012年のロンドン開催に決まったときも、ブレア首相が国が全面的にバックアップすることを表明している。つまり、莫大な税金が使われるということである。
以上の状況を冷静に考え、福岡市の財政状況を考えればオリンピック開催は不可能である。仮に国が支援したとしても、2兆7千億円の借金を抱え、財政調整基金も底をついているような今の福岡市の財政状況では、新たな財政負担ができる余裕はない。ゼロ金利政策が解除され、長期金利が上昇している。また自治体破産法の検討が進められており、金融機関の債権放棄が求められる貸し手責任が問われる状況も想定され、自治体の財政状況による貸出金利に格差が生じる始めようとしている。金利上昇が始まる状況で、過去の借金があまりにも大きい福岡市は、わずかな金利上昇でもたちまち財政が悪化する。仮に1%金利が上がればどうなるか。福岡市は毎年2500億円の借り換えをしており、1%金利が上がると10年かで1400億円の新たな金利負担を生じる。このように、脆弱な財政状況で、背伸びした都市開発は許されないのだ。オリンピック招致を利用した都市開発は、本当に福岡市の将来に明るい希望を産むとは考えられない。じっくりと50年100年先を見据えたまちづくりを市民と共につくるべきである。