都市論としての人工島(その4)

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 福岡市は人工島への企業誘致のために、新に助成制度を発表しました。10億円を上限に費用の1割を市が補助するというものです。対象の企業は人工島のセンター地区(かってのアジアビジネスゾーン)に進出する企業で、映画館や娯楽施設、スーパーなどの商業施設を対象としています。このような商業施設を誘致することで賑わいをつくり出し、その賑わいによって他の事業所の誘致を進めるという計画です。しかし、アジアビジネスゾーンが何故失敗したのかの検証がないままに、新たな誘致策をとっても展望があるとは考えられません。
 しかし、何よりも問題なのは、事業計画がコロコロと変わり、当初の「照葉の街」づくりとは無縁の街づくりとなってきていることです。今の福岡市の市政は、吉田市長が「損切りしてでも土地処分をする」といっているように、土地処分のために理念も投げ捨て、なりふり構わず事業を進める姿勢にあります。これは人工島の住宅を買った住民に対する背信行為であるとともに、福岡市の街づくりについて理念がないことを改めて示しています。福岡市の将来像がないままに場当たり的に屁理屈をつけて開発を進める市政は、将来の市民に大きな負の財産を残すことになります。
 全国の埋立地の現状を見ると、多額の助成をしても企業誘致が進んでいません。企業が進出するには事業としての展望がなければ進出しないことは明らかです。市も認めているように、土地を資産として保有する時代ではなく、事業性がもっとも重視されるのは当然のことです。既に市内では商業施設は過当競争の時代になっている中で、事業性が見込めない人工島に商業施設が進出する可能性は極めて少ないと思われます。加えてアメリカの住宅バブルがはじけて世界経済が低迷し始めた状況で、日本経済も影響を受けることは必定です。所得格差が広がり、物価上昇と景気低迷のスタグフレーションの様相が見られる中で消費の減退は避けられず、人工島に新たな商業施設の投資が進むとは思えません。
 いま福岡市に求められているのは、未来に向かって歴史・文化・自然を生かしたスローな街づくりです。ミニ東京のような街づくりは止めなければいけません。長期的な展望を持った都市に対する哲学が必要です。